池もと横も。 | あお色のたね、きん色のみ

あお色のたね、きん色のみ

A Blue Seed and a Golden Fruit
Subtle, Slight, Trivial Happiness of My Sweet Days
自分を受け入れる。自分を楽しむ。自分をゆるす。自分を愛するの日々。

池もと出会ったのは昭和46年の6月だった。


竹藪の丘陵地帯を拓いて新しく建った

府営住宅に当選して引っ越したのは

小学校1年生になってひと月後のことだった。


いろんな所に大きな団地のコンパウンドが

どんどん建って、ベビーブーム世代の

我々一年生がどんどん転入してきた。


池もは、自分が転入してきた翌日に

同じクラスに入ってきた。

その日から一緒に帰ったのを覚えている。

初めて小学校でできた友達で

安心と喜びが心に満ちたのを

今でもよく覚えている。


池もに横もというニックネームは

小学校3年生でまた同じクラスになって

2人で遊んでいる時に池もが

「これから横ももさんて呼ぶわ」と

言ったのが始まりだった。

「えー!そしたら私も池ももさんて呼ぶわ」。


その「もも」の部分が

いつの間にか短縮されて「も」だけになった。


池ものことは、他のみんなもそう呼んだが

私を横もと呼ぶのは池もだけだ。


5年生、6年生とクラスは別れたが

私たちはずっと友達だった。

中学生の時は3年間一緒に登校した。

道すがら、好きな男の子の話をずっとした。

私たちのBFは2人とも男バス部だった。

私が理想的な、甘くて苦い、独りよがりの

「お別れ」をそのBFとした時も

私の隣には池もがいた。


中学卒業と同時に私は隣町に

引っ越したので高校は別々の所へ通った。

でも、休みに入ると定期的に会った。

池もは件のBFと高校に入ってからも

ずっと付き合っていたので

高校一年の春休みに突然2人で

うちを訪ねて来てくれたりした。

お揃いのスタジャンを着ていて、

ものすごく眩しく思えたものだ。笑


初めて会ってから54年。

私たち2人は色んな波を乗り越えてきた。

ずっと、何年も会わなかったとしても

池もは私の心の中にいる

大切な友人だ。

そこにいてくれなくちゃいけない人、

そんな感じだ。


今週末、10年ぶりに池もに会った。

私たち学年は今年、60歳になる。

私の中でなんだかピルピルとサイレンが鳴って

すぐに会っておかないと、と

そんな気がしたのだ。


その予感は当たっていたようで

池もにはここ数年間に色々あった。

私がのほほんと文句を垂れつつ

翻訳の仕事をしている間に

様々な変化を経験していた。

それは人生の苦くて辛い部分でもある。

私はその報告を受けて

心の中で泣いたり喚いたり、

信じられない、なんでそんな酷いことを

人生は池もにするの?と思った。


池ものことを考えると

そこには11歳の時の彼女がいる。

自分で編んだグレーと白の混ぜ織毛糸の

マフラーに、チェスターカラーの

オーバーコートを着ている。

池もはいつでもきっちり髪を三つ編みにして

伏し目がちな目元は長いまつ毛に

縁取られている。


そんな日の池もから、

私たちはどれほど遠くに来たんだろ?

池もとの記憶の瞬間、瞬間が

カラカラと幾十にも重なり合って

悲しみが心に溢れるようだった。


でも、本当に会ってみると

池もはそんなの悠々と凌駕して

明るく、元気で、

何よりとても美しいのだった。

池もはいつでも前向きで

どんなことも慌てずそっくりそのまま

受け取って生きていくのだ。

強い。しなやかに強い。


池もは私が子供の頃に住んだその団地に

今は1人で住んでいる。

相変わらず、燦々と窓から陽が入っていた。

そのダイニングに、池もは私を迎えるべく

心尽くしの準備をしていてくれた。


私たちは10年ぶりとは思えないスピードで

すとんと10年前の続きを始めた。

あれこれとキャッチアップをして、

私は大河ドラマを見ないとだから

3時間後に帰るね、と言った。

池もは電車賃が20円安くなるよう

大阪寄りの駅まで車で送ってくれた。


私たちはなんでも話した。

そして、これからもそう。

お互いになんでも受け止めてきた。

それも、これからもそう。


池もが横ものことをどう思っているのか

横もである私にはそんなに分からない。

同じくらいに友達だとは思ってくれてる、

そんな風には思う。

でも、横もは池もがものすごく好きだ。

まるで家族の1人のように、

大切で、尊くて、柔らかい存在だ。


池も、池もが池もで良かった。

私の人生で池もに出会えて良かった。

宝物だ。


団地は概ね昔のまんまだ。

「これから横ももさんって呼ぶ」と

池もが言った公園や

夏休みに毎朝ラジオ体操した広場や

自転車に乗る練習をした場所、

糸トンボを息を殺してとった場所、

白詰草でいっぱいだった土手、

少しづつ姿を変えながら、

でもそのまんまだ。


そこに私は池もと横もの小さな姿を

見るような気持ちになった。

何度も、何度も

「懐かしい」と言葉がこぼれた。


池も、これからも遊びに行くね。

私のところにも来てな。

夏の果物のムースを作るよ。


池も、大好き。