そして旅が終わったら / 長沢哲夫(ナーガ) | anomarley's diary

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やわらかな太陽のこめかみから


世界のひもが湧き出てくる
 

水が築くわらぶき小屋


その戸口に一匹の魚が泳ぐ


その奥の暗がりにも


二匹の魚は果てしなく旅をつづけている

小屋の前には花々が咲き乱れ


と思う間に コンクリートの巨大なゴミがそそり立つ


かねてあった時の流れ


今はうっそうと霧がたちこめている


ふとたちよる小舟には 

 

ガラス張りの海とガラス張りの


記憶の海が積まれている

そのはずれにはいつも


こわれかけの高速道路が行くあてもない

 

車の列を乗せ ころがっている


地図には「生きながらえて」とあっても


実際にはただのむきだしの

 

喉のふるえがあるだけだ


さらには「しあわせ」などという地点は実際には水色の


顔の傷口に行き来する

 

一匹の華麗なやもりの鳴き声なのだ


「仕事とか食うとか飲むとか楽しむ」とか

 

みごとに力強く記されてはいるが


実際には 真夏の陽盛りに

 

投げ出された飛べない蛾の羽ばたきだ

おろおろすることはない 

 

世界はもぬけのからだ


ふり返らなくともいい


心はつぎつぎに

 

水に溶けていってしまう

出かけよう

そして 旅が終わったら 

 

美しい川のほとりで会おう