ドンへ side



僕はバカみたいに熱をだして。ひきつけまで起こして、しばらく入院することになった。久しぶりに学校に行ったら。ヒョクチェくんは転校していて。クラスメートは、さすがにバツが悪かったのか。あまりかまわなくなって。僕はますます、学校ではしゃべらなくなった



受験を考える時期になって


『お前、外国語のほーがうまいじゃん』


ヒョクチェくんが、冗談っぽくゆってたことを思いだした。確かに。英語のリーディングは得意だったし。


いっそのこと、海外に行ってしまったほーが、楽なのかもしれない。両親を説きふせて。必ず帰ってくることを約束して。僕はひとり、この国を離れた



異国でのひとり暮らしは、もちろん戸惑いもあったけど。みんなやさしくて。まだ言葉がままならない僕を。ゆっくり待ってくれる。つっかえても誰も気にしない。それだけでほっとした


入学式のときに。キャンパスの中庭に、ピアノが置いてあるのを見つけて。最初は知り合いもいなかったから。時間があるとそこで弾いていた。そのおかげで、友だちができたりもして。おなじ学部だったり。ちがう学部だったり


講義がおわって。帰る前にピアノを弾いていた。気がつくと。ランドセルを背負った子が、何人か遠巻きにしていて。付属の小学校の子なんだろう。僕の演奏を聴いてるわけではなくて。ピアノを弾きたいらしぃ


《どうぞ》


立ちあがると。黄色い帽子がぺこりと上下して。わらわらとピアノに群がる


ふふ。かわいーな...


どーしよーか。図書館でも行こーかな。そう思ったとき


『ドンヘ』


え...突然、名前を呼ばれて。久しぶりに聞いたウリマルで。やっぱりイ・ドンヘか。振りかえると。すこし精悍になったヒョクチェくんが、歯茎全開で笑っていて。前にもこんなことあったな...あの日の風が。吹き抜けた気がした



《つづく》


※本日のラインナップ