ドンへ side
あわてて鼻をハンカチで覆う。それでも一度、香ってしまったものは。なかなか消えてくれない
『危ないから、ちょっと離れてろ』
あ、うん...ヒョクチェを遠ざけて。こいつも、また覚醒したら面倒だし。猿ぐつをかませて。手足を拘束して...見た感じ。ふつーのサラリーマンだけど...
『ヒョクチェ。お前、もしかして...』
俺の言葉に。心もとなげに、佇んでいたヒョクチェが。目をおよがせて。こくんとうなずく。やっぱり...ヒートか...
『ちょっと熱っぽかったから...風邪かと思って、はやく帰ってきたんだけど...』
本人が認識する前に、アルファに嗅ぎつけられたってわけか。よかった。タイミングよく俺が通りかかって。いや...よくもないな...いまの状態だと
『ねぇ。ケガしてるんじゃないの?』
ふいにのびてきた、しろくてほそい指。ひっ。思いっきり身体をひく。ドンへ?だ、大丈夫だから...あぶない。あぶない...ついその手を、引き寄せてしまいそーになる
ヒョクチェに、着ていたパーカーのフードをかぶるよーにゆって。シウォンに電話をかけた。さっきヒョクチェに貸したから。スマホからも匂いがして。くらくらする
《ドンへか。大丈夫なのか》
ワンコールもしないうちに。いま向かってるから。ありがとう。とりあえず相手は捕まえたから
《捕まえた?》
うん...なんか...俺がやったみたい...お前が?ん...
《さっきヒョクチェが。アルファに襲われたって言ってたけど》
助けてくれって。そーなんだけど...電話の向こうで。息をのむ気配がした。まさか、お前...ん...
《だから、まだ...》
安全じゃない...しばらく、沈黙がつづいた
《わかった》
なるべく急ぐから。耐えろ。ん...頼む...電話をきって。心配そーに俺を見ている、ヒョクチェと目があった
《つづく》
※本日のラインナップ