《別荘に来い》


兄に呼び出された。会社でも実家でもなく...ってのが気になったが...別荘とは名ばかりの。愛人を囲ってるセカンドハウスだ


俺の家は代々、手広く事業をやっていて。そこそこの財産がある。俺も相応の役職をもらってる


『元気そうだな』


あぁ。兄さんも。兄さんと言っても母親が違う。嫡出子ってことにはなってるけど。実の母親は。いつのまにかいなくなった


『お前もそろそろ結婚したらどうだ?』


それか...また取引相手のご令嬢でも押しつけるつもりか...ほとんど話したことなんてない父と。この兄と。顔もやり方も、ぞっとするほどそっくりだ


『そんなつもりはまだないよ』


『まだって。いい歳だろ?』


決まってるひともいないようだし。ほっとけ...それとも。にやりと口元を歪ませて


『結婚できない理由でもあるのか』


机の上に写真をばら撒いた。絶句した。それはあの日の。あの夜の。欠片...


はめられたか...不思議と怒りはわかなかった


ひと呼吸おいて。で?どうすればいい?話が早いな。兄はある関連会社の名前を上げた


『社長が勇退するってさ』


そこの令嬢と結婚して。社長になれ


そういうことか...そのご令嬢とは、以前見合いをしたことがあった。父親の勧めで。あまりに合わないから、断った。だいぶしつこくされたけど...まだ諦めてなかったか...そっちとこっちが。利害が一致して、結託したってわけか...はん。こんな茶番に引っかかるとは...俺も堕ちたもんだな...


『わかった』


机の上の写真には手を触れず。席を立った


『式は来月だ』


随分、用意周到なこった。肩をすくめて。部屋を後にした


父親が兄ではなく。俺に跡を継がせたがっていたことは知っていた。それも面白いかと思った。やりたいようにやってやる。潰したって構わない。でも執着はなかった。この兄ほど...


つてを辿って。持っていた株式をファンドに譲渡して。処分できるものはして。しきれなきったものは委任状を置いて


あるだけの現金を持って。翌日、この国を離れた。ここに。俺のリゾートはない。帰るつもりも未練もなかった



《つづく》


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