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ドンへ side
高校三年の二月ともなれば、あとは卒業式を待つばかりで
俺はそれより先月あたりからあちこちに並ぶチョコレートの山が気になって…
バレンタインかぁ…ヒョクにあげたいなぁ… でもなぁ…
そんなこんなでうじうじしてたら、前の日にヒョクチェから連絡があった
《あした、ひま?》
うん…
《ひまなら母さんがうち来いって》
うん…
次の日、ヒョクチェんちに行くまでにあっち寄ったりこっち寄ったり…でも結局チョコなんて買えなくて…
おかーさんの好きなシルトックを買っていった
玄関を開けてくれたのはヒョクチェで、俺が持ってる紙袋を見て
『お、俺に?』
『あ、え、おかーさんに…』
そーゆーとあきらかに残念そーな顔をする
なんだよ…ま、上がれ
家の中にはあまーぃいー匂いがただよっていて
『あ、ドンへくん、ちょうどよかった。いま焼き上がったの』
え…
『バレンタインだからケーキ焼くとかゆってさ。俺にはそんなことしたことないのに』
『あなたひとりのために焼いてもつまんないじゃない。ね、ドンへくん』
え… あ…
ヒョクチェのおかーさんが焼いてくれたチョコレートのチーズケーキは、甘さ控えめでとてもおいしかった
冷めるとしっとりしてまたおいしいの。持って帰りなさいね
そーゆってくれて、当たり前のよーに晩ごはんまでいただいて、いまはヒョクチェの部屋でDVDを観てる
俺はテレビの前であぐらをかいて、ヒョクチェはちょっとうしろで横たわって。みかんをたべながら
なんだろ、ヒョクチェあんましゃべんなぃ
観てるのつまんないかな
なぁ…
ん?
ふりむくとヒョクチェはみかんをたべるでもなく両手でもてあそんでいて。こっちを見ずに
お前はないの?
え…
チョコ…俺にはくれねーの?
母さんにはシルトック買ってきて…
あ…
まぁいーけど…
ヒョクチェはそーゆーとみかんの皮をくるりとむき、丸ごと口に放りこんで皮をゴミ箱に投げいれた
そーか…
ヒョク、待っててくれたのか…
やっぱり買ってくればよかった…
チャンスはいっぱいあったのに…
ついなみだがこぼれてしまって、それに気づいたヒョクチェが、あわててたべていたみかんを飲みこんで身体を起こす
『なんだよ、泣くこたねーだろ。別に怒ってるわけじゃねーよ』
わかってる…わかってるけど…
ぐしっとなみだをふいた腕をひっぱられる
『ヒョク…ごめん…買おーと思ったんだけど…ひっく…買いたかったんだけど…』
わかったから、泣くな…
ヒョクチェがやさしく肩をなでながら
ごめんな…ちょっとさみしくて…意地悪ゆった。その気持ちだけでうれしーから…
ヒョクチェがこぼれたなみだをすくいとってくれて。まぶたにくちづけてくれて。だきしめられたままベッドに寝ころんだ
きょー泊まってくよな
耳にアツい息がかかって。しゃくりあげながらうなづいた
《おわり》
※前後しますが、ちゃんとチョコあげる話を書いてます(笑)