マッシュ・ルームスキーという名が
筆名だということは
無論、わかっていた。
が、先生が
ポッタ・アグネル
という
北の騎馬族にルーツを持つ
名を持っていた、とは
予想だにしていなかった。
案内された
施設の部屋の入り口の
ネームプレートを見て
戸惑っていると
主菜も副菜も
すべて粥状になっている
食事を運んできた
介護士が
『面会は8時までです』
と、時計を見やり
入室をうながした。
『アグネル氏はもうすぐ
時間の彼方へ行って
おしまいになりますから
お話しになりたいことや
お聞きになりたいことがあったら
いまのうちに』
と。
ぼくは食事介助を申し出て
味気ないプラスチックの皿が
並び、乗っているトレイを
介護士から受け取り
ぼう、と
壁を見つめる先生に
微笑みかけた。
『先生、ご機嫌いかがですか?
倫太郎が来ましたよ』
『りん、たろう?』
先生の瞳の焦点がぐるり、と
ぼくに合い
突如、破顔した。
『よう来た、よう来た』
と、きのこ文字を習うために
隠居していた先生の
あばら家へ押しかけた日
そのままの
大声で
近くへ来い、と
手招きをした。
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木馬座暮らし⒊の
始まりは、こんな風に
たぶん、始まる。
文字として書く、とは
一歩、森を進むこと。
その先が見えてくる。
或いは、周囲が
浮き上がってくる。
老いが極んで
もはや、おむつを当て
現在の時を、
過去を彷徨うだけに費やす
かつての師が
終の住処として
収容されている
ちいさな病室の
窓からの、夕日や
消毒剤と
かすかな
尿臭が混じった部屋の空気
履き潰された
フェルトスリッパの毛羽立ちが
見えてくる。
木馬座暮らしという森は
わたしの中で
根を張り
枝を伸ばし
まだまだ、深くなる。
秋が来て
だんだんと夜の長さが
わたしを
屹立させるころ
ぐう、と
書き進めたい。
そして
月鞠裁縫店のハナシも
だんだん、
はっきり見えて、きた。
木馬座暮らしと
連動する物語。
ふかく、ふかく
沈んで
わたしの
井戸の壁を
抜けていきたい。
●
と、独り言を書いた
台風の近く雨の、朝。
きのうは仕事場の
飲み会で
リアルワールドの
酔いという
フィルターを
わざわざかけた
雑談の儚さを
堪能し
終電を降りて、
真夜中の
コンビニエンスストアの
自動ドアに映った
50年近く生きた
オノレの〈像〉を
他人のように
眺めた。
そして、今は
次女が焼く
長女の誕生日の
チーズケーキの匂いに
つつまれ
この、リアルワールドが
わたしを
ようやく
着地させた、と
感謝しつつ。
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昼過ぎからは
カフェ
お茶とお菓子
ICH Iさん
へ。
ちいさな打ち合わせ。
窓打つ雨の
台風の午後の、愉悦。
昼に灯す、日の
カフェも良いものです。
夏のはちゃめちゃブックス✨
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みなさまも、良い
すいようびを。
しお
冒頭のpicは
お気に入りの青い蝶のブローチを
花のポスターに乗せて撮った。
いま、木馬座暮らし3は
こんなイメージの中に在る。