夢を見た。


わたしは
ほどよくカジュアルな
イタリアンレストランで

食事をしようとしていた。


向かいに、ふたり座っている。

わたしのまえには
若い男のコ

男のコの隣には
わたしよりはうんと若いが

男のコよりは
少し年上の、女のコ。



皿がいくつか来て

わたしは、本を読みながら
食べようとして


(気遣いでもあったようだ。
若いコたち通しで気楽に
喋ればいい、と。そんな風に)



やっぱり

と、いった感じで本を閉じ

ふたりと喋りながら
食事を、した。



場面は変わり

わたしたちは帰ろうとしていた。


会計をすまそうと
立っているのは

コストコとか
IKEAみたいな巨大な場所で

しかも、バックヤードに近い
風が、ひょうひょうと

吹きぬけるような。


そこで、
会計の順番が来るのを

待っていた。


わたしは
出口を確認していた。


あそこから出るとあそこに出る。
あちらの出口は便利なようで
万が一のときには、袋小路になる。


そんな風に。




すると、男のコが
なぜ、出口を確認する?

と、聞いてきた。


口ごもりながら


『ゾンビが来たら
すっ、と逃げられるように。
いつも、確認しているの』


『へえ、そんなこと
考えているんすか』


『いまなら、
あそこから出るといいと思う。
出たら、すぐ裏門だから。
すぐに幹線道路があって
ルートが開けてる』


青いテープがびらびらと揺れる
その出口は、荷物搬送のための
もので、そこからは

やはり、風が吹いてきていた。



『マジで?』


男のコがふいに
わたしを抱きしめた。

頬にくちびるの先が当たった。


わたしの髪を
くしゃくしゃと撫でた。




わたしは男のコと出口へ向かった。


少し年上の女のコの
ガウンのようなコートの茶色も

ついてきた。


見ると、女のコも、微笑んでいる。

ポケットに両手を無造作につっこんで

エナメルみたいに塗られた
てかてかの赤いくちびるが、

つんと、青空を向いている。



裏門へ、と、歩く。


わたしは、男のコに
もたれるようにして

グレイのスーツの胸に

(ひょろりとしたカラダの
とても、薄い胸)

こつん、と、頭をぶつけた。



『わたしが
もし、若かったら、
あなたのこと
大好きだった、と思う。

誰よりも、すてきだと
周りをずっと、うろちょろして
困らせたと、思う』


と、本当の気持ちを、言った。


『あなたの顔も、声も
どこか弱気で、
まだ、自分に自信の持てない
でも、とても優しくて、
正義感のある、こころも
ぜんぶ、好きなの』



女のコが振り向いて
わたしにおおきく微笑む。

ハイカットのスニーカーから
ソックスの黄色いレースが
出ていて、たんぽぽみたい。


男のコの付けている香水は
柑橘系だけど、匂いの最後は
とても、甘い。

甘くて、やっぱり
どこか、頼りない。


『わたし、
生まれ変わったら
猫になって

あなたに拾ってもらって
そばで暮らしたい、と
思っていた』


と、言いかけて、やめた。


それも、気遣い だと、分かって。


猫にならずとも良いのだ、

と、気づいて。



太陽が、差してきて
わたしは男のコの手を引いて

女のコと笑いあって

(彼女はわたしの
親友のようだった。
髪を額から大きく結んで
ざんばらと落ちてくる後毛が
ひかりに透けて、とても綺麗だった)


3人で、裏門を出る



その手前で、目が覚めた。




夢は、いつも映像で覚えている。

巻き戻すように、覚めてからも
何度かは、観られる。

でも、久しぶりに
こんなにはっきりとした、夢を見た。



初夢だ、と うれしくなって

いま、布団のなかで
これを書いている。


映像を、文字に起こした。




とても、瑞々しい気持ち。


階下では、
早朝から起きている父が

女手と

ジブンを映す
カメラとしての他者のわたし

を、待っているけれど

気にすまい。




昨日、次女が

来年の正月は
ここに来たくない

と、打ち明けてきた。



大晦日の父の

ひたすらに世間を見下す
物言いに、当てられたらしい。



『紅白が見たくても

酔っ払った
おじいちゃんがずっと

あいつは嫌いだ
あれは認めない
見たくない

と、ずっと大声で言うから。

怒鳴るから。

楽しみにしていたアーティストも
あんな風に言われると思ったら

嫌になった』



と。



いいよ、いいよ

と、わたしは答えた。


お姉ちゃん(長女)も堪え切れず
もう、来られないんだから。



『ママは、生まれたときから
それを聞いてきたから慣れてる。

ひどくても我慢できるし、

こころを
のっぺらぼうにして
スルーすることも

技術として、できる。


不安をぶつけてきたり

ジブンを見てほしいがために
こちらを攻撃してきたり

可哀想なひとのようにして
関心を引こうとしたり

お金をくれたり

優しくしてきたり

わざと無視されたり、

さまざまな方向からの矢も
冷静に、除けることができる。

でも、あなたは慣れていないから
まともに受け止めてしまうから。


まじめだし
悪い人ではないけれど

彼は、闇のひと、なんだね。


おじいちゃんの闇は

すべてが、おんなじ
こころの穴から出ているんだよ。

生みの母親を知らない

という、穴からね。



でも
誰も、その穴を埋められない。

誰も、おじいちゃんの
夢の、お母さんにはなれない。

なっては、いけないしね』


そう、話してから眠った。




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実家の庭。鳥が入らない巣箱。
父は、置物の栗鼠を、巣箱の入り口に置いた。



お正月は、寂しい。




父が、寂しがっているから。

愛に飢えて、吠えているから。



他者からの愛は
注いでも、注いでも

父からは、抜けて。



いつしか

ごはんのときの
おかずの数が
愛の表し

にまで、なってしまい


皿数が少ないと
むう、と、なったり

温め直したものが
食卓にあがると

軽んじられている

と、とたん、曇る。


美味しいな、と
いうこともなく。



愛をほしがるこころとは
なんと、厄介なものだろう。



だから、わたしは

愛などいらぬ

と、生きてきた、ような。



手数をかけることで
ありがたがられる

女手、というものに
埋没しないように、

たくみに、無頼に

角度を変えながら。




裏門から、出る。

とても、象徴的だ。




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昨日の、48才になりたての、ワタシ。
怒りよ、わたしから、すべて、抜けろ。
悲しみは、赦しのシロップに、なれ。



はちゃめちゃに
わたしやあなたが生きるなら
ナニカ変わるだろうか。

yes



空想家sio