やあ、久しぶり。

きみに、手紙を書くなんて
思ってもみなかったことだよ。


でも、仕方がない。


ぼくは、ぼくの森を歩くと決め
きみはきみの森に残ると決めた。


そうなれば
いまは、離れているしか、ない。


とにかく、

きみの森がいつも、ほどよく
湿っていることを願うよ。

あまりに日が当たるようなら
しんどいだろうけど、
移動したほうがいい。

だって、
すっかり干からびたきみを

スープのだしに使うだなんて
絶対、したくないからね。

(それが、きみの
もしもの時の望みだとは
知っているけど)



しかし、
きのこ語の文字というのは
書いてみると、ずいぶん
骨が折れるね。

なんだろう、この、
かたつむりの軌道のような
凹凸の無さは!


ちょっとでも気を抜くと

ね  
なっちゃうんだ。

めがね めがぬ
いねむり  いぬむり て具合さ。



さて、ペン先が
きのこ文字に慣れてきたところで

近況を知らせようと思う。



いま、ぼくは
念願の星屋になるべく

小さなプラネタリウムを
開く準備をしている。


雨ざらしになっていた
廃校の教室をひとつ 
格安で譲ってもらっての

一からの出発だ。


無理やり、
移動したせいか

もともとの状態も
思っていたより 悪かったのか

床はがたがた
窓枠はよれよれ。

びゅうびゅう
隙間風は入るし

時折、床が
腐って、ねけ、

(あ、違った)

抜け落ちたりして

なかなか苦労している。


(ほら、わたしが
言った通りでしょ と
きみが、可愛い赤いかさ
自慢げに反らせているのが
目に浮かぶよ。
確かに、計画も無しに
こちらに来たのは
無謀だったかもしれない)



でも、まあ
最初から、そんなに
思いどおりというわけにはいかないさ。


いまはひどくても

毎日、たゆまず
とんてんかんてん
金槌と釘でやっていたら

この冬が終わるころには
なんとか、格好がつく と思うんだ。


きみも知っているだろ?

ぼくは、わりにしつこいんだ。

(きみに求婚した時を
思い出してくれたまえ)

かならず、プラネタリウムを
開いてみせるよ。




あ、良いニュース!

古い遊園地から
メリーゴーランドの木馬たちも
譲ってもらえることになったよ。


ぼくの星屋としての知識が
モノを言って
どうにか、許可が下りたんだ。

そりゃあ、大変だったよ。


過去の星座を呼び覚まして
連れてくるのに

メリーゴーランドの木馬は
不可欠なんだ!

って、半日、
演説をぶったら
ようやく、わかってもらえて。


(これを忘れている
星屋や関係者が多すぎるよね。
ふかふかのソファなんかに
座って、ふんぞりかえってちゃ
星座が気を悪くするよ)


さっそく
来週にも、木馬が
一頭ずつ、やってくる。

そろそろ、銀河草原から
草の実を送ってもらわなくちゃね

あの子たちは
それしか、口にしないから。 

きつね男爵に頼んでみるよ。




そうそう、こちらでも
美味いパンを焼く店を見つけたよ。

なんと、店主は
10月さ。

(どおりで、今年の秋は
短かったよね。
あっという間に冬だった!)


どのパンも美味いけど、
クロワッサンが絶品でね

齧れば

ぱりぱりで、さくさくっ!
口のなかで、ほろり、かさり。

(そりゃ、そーだ。
クロワッサンと10月は
歯ざわりみたいなものが
そっくりだもな)



パン屋をやるなんて
10月も考えたものだよ。

ただ、こちらは
ふつうのヒトが 客だから

10月は、緊張しているのか
ぼくの顔を見ても、澄ましているよ。


栗色の髪をきゅっと
後ろに結んで

紺色のハンチングなんか
かぶってさ

なかなかの男ぶりだよ。


店員として、金木犀と
銀木犀を従えて

(ヤツらのマッシュルームカットも
こちらだと、さらさらと
美しいよ。美少年にみえる)


まー、人気店になってるよ。




さて、ぼくはこんな感じさ。

(ちっとも変わらない って
きみは笑っているんだろうな。
笑う時の、甘い粉の匂いが
こちらに漂ってくるようだ)


きみ、くれぐれも
気をつけて。


苔のやつらが笑わせても
あまり、粉を散らしてはいけないよ。


きみほど きれいで
気立てのいい、きのこは
他にいないから

きっと、境界のすぐ近くまで

ハナヅラたちが
嗅ぎまわっていて、

ふと
見つかるかもしれない。


そうなったら
いま、ぼくは
助けてあげられない。



手紙と言っても
なかなか、別れを言うのは
難しいものだね。


また、書くよ。



可愛いきみへ

星屋のシラガより。



追伸

ぼくの写真を送ります。

きみの写真もいつか
送ってください。



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はちゃめちゃな 噺を
ひとつ、お届けしました。




町田のカフェで
ミルクティーを飲みつつ
sio