*これは、ひとつ前の記事に書いた
オハナシの続きです。

よかったら、こちらから
ご覧くたさいマセ!

すでに読まれた方は
続きを、さあ、どーぞ!




その日は、ハロウィンだった。


わたしの勤める郊外の
ショッピングモール内にある
スーパーマーケットも

例外に漏れず、
ハロウィンの騒がしさに
便乗しようと張り切っていた。


いたるところ、
かぼちゃかぼちゃ。

入り口にも、売り場にも
はたまた、トイレの前にも!

店員たちも、紙の帽子で
老いも若きも、かぼちゃ頭に。

支配人は、ヴァンパイア風に
スーツにマントを付けて。



そして、
肉屋の店員である わたしは

特設売り場で、朝から
かぼちゃコロッケを売っている。


『ハロウィンの夜のおかずに
かぼちゃコロッケ、いかがですか?』


笑顔で、

小さく切ったコロッケを
楊枝に刺して、

行き交う親子連れに
渡しながら、

どこか、胸に痛みを感じている。


ふん、コロッケが何よ!
と、思っている。


ううん、コロッケに罪は無い。

わたし、コロッケ大好きだもの。


(売れ残った上等の肉を
マシンで挽いて、社割価格で
買って、茹でたじゃがいもと作る
コロッケは、わたしの大の好物。
揚げたてをあんぐりと食べ
翌朝は冷えたのに、じゃぶじゃぶと
ソースをかけて、熱々のごはんと食べる。
これも、また、好き)


ただ、ただ
苛立っているだけ。

肉屋さんで週5日も6日も
働いている自分に。


厳しく 働くのは生活のため。

それは、もちろん、そう。


でも、なぜ、ピアノを弾かないの?


シフトの合間を縫って
高円寺にある老舗の喫茶店へ

電車に半時間揺られて
足繁く通う時間を

なぜ、ピアノに使わないの?


わかっている。


わたしは逃げているのだ。

わたしにはピアノが必要だけど

わたしのピアノを必要とするヒトは
いやしないのだ

という事実から。



もう、2年、弾いていない。

子どもの頃から馴染んだ
ドイツ製のアップライトのピアノ。

お金持ちじゃないわたしの家で
それは、夢そのもののカタチをしていた。


わたしは、弾いた。

歌うように
日記を書くように
喋るように

毎日、まいにち。


いちにちのほとんどを
ピアノの前で過ごした。



でも、
音大には入れなかった。


あるひとには、

あなたのは
好き勝手に弾いているだけ

と、評された。




確かに、そうだった。

わたしは、ピアノを
楽器だと思っていなかった。

弾いていても、それを
音楽だと思っていなかった。


わたしには、音が文字だった。
色だった。

感情そのものだった。



わたしは、ヒトに
感情をうまく伝えることができない。

(幼い頃から、ずっと。
26才の今になっても変わらない)


ようやくに感情に見合う
言葉をつかまえて

口から出そうとしたとたんに

それは、10月の夕日のように
たちまちに山の向こうへ
消えてしまい、

あ、と言って、黙る。


その繰り返しだ。



だから、よく、空想した。

わたしの弾くピアノを聴いて

わたしが伝えたいことを

息を吸うように
音を見るように

分かるヒトが
現れるのを。



ありったけの勇気を出して
駅前で 人の波に向かって
ピアノを弾いてみたこともあった。

(短大生の頃、一度だけ)


流れ星にも、願った。

『わたしのピアノを
好きになってくれるヒトと
出会えますように』


でも、願いは叶わなかった。


実家を出たのをきっかけに
ピアノを弾くのを止めた。


(食べられないし)




『かぼちゃコロッケ
いかがですか?』

何十回と声を張り上げ、
喉が痛くなった頃、

そのヒトが現れた。


知らない男性。

ううん、高円寺の喫茶店で
何度か見かけたことがある。


ひょろりと背が高い

少し、疲れたような
まなざしで、空中を眺めては
時折、深く瞼を閉じる、

猫舌の。

(お店のご主人にそう喋っていた)



男のヒトは
おもむろに、言った。


『コロッケ、ください』

『おいくつ?』

『あなたはいくつ食べる?』

『え?』

『ぼく、あなたと一緒に食べようと
思っているんだ』

『あ、』


わたしは
何かを言いたかった。

でも、言葉は
またも、10月の夕日だった。



無意識に指が動いた。

こころの中で、右手が
ぴらぴらと、黒鍵の上を走り
左手が、木の枝を走る栗鼠のように
快活で、明るい和音を叩いた。


男のヒトは
まなざしをわたしの指に向けた。

くす、と笑った。

眩しそうに。


『や、意外と
食いしん坊なんだ。
じゃ、6つ、もらおう』

『なぜ?』


ようやくに、言葉が出た。


『なぜ、あなたは
わたしと ?』

『だって、ぼく、きみを
よく知っているから』


男のヒトは、
一冊のノートをくれた。


開くと、五線譜に音符が踊っている。


それぞれに

どんぐり、とか
青い水たまり、とか

タイトル付きで。



『ほら
きみが 落っことした音符を
連ねたモノだよ

ぼくはこれらが
とても好きで、ね。

なにしろ、すべてが
見たことない旋律で

おそろしくユニークで

時に、落としたパイみたいに
甘く、ぐしゃぐしゃで

でも、いつも
透き通っているんだ』

あ、』


わたしは男のヒトの腕を取った。

楽器店がある
ショッピングモールを指差した。


男のヒトが、頷いた。


『きみ、弾くんだね』

『うん、弾きたい』



わたしたちは、走った。


しっかりと手をつないで、
ふたつの流星のように。



【fin】



{CB21801A-36D5-4DFB-B6BD-52256BD8D28C:01}
★ いま、可愛がっているグリーンネックレス。
カレルチャペック紅茶店の空き缶に合わせたら
すごく、すごく、可愛くなった。




さー、オハナシ書いたー!

その壱は、男の子の視点で
その弐は、女の子の視点で。

今日がハロウィンだから
ハロウィンを出したり、

いろいろ、愉しかった!



実はこのオハナシ

【あの子かつて
ピアノ弾きだったという
どおりで、よく
音符を落っことしていたっけ】

むぎしお

という字余り短歌を

ある可愛いひとに
インスパイアされて

作ったのが、きっかけ。




書けて、嬉しいナリ。





さて、そろそろ
出かけようかな、の
sioでした。