この記事は続きなのです。

気になる方は、
から、どうぞ!




数分後、
(箒に乗ればどこでもひとっ飛び)

大魔法使いツワッケルマンと
わたしはロシア料理店にいた。


バラライカの美しい音色が
流れる中、わたしと彼は

ピロシキを食べ
ボルシチをゆっくりすすり
ロシア風ぎょうざまで食べた。



食事の間中
彼はとても紳士的で
給仕の青年に

『このご婦人に
ジャム入りの紅茶を』

などと言うほどだった。



デザートのアイスクリームを
いただきながら、悪戯ぽく

『むかし、わたしをよく
ばか、とか、まぬけ とか
この腹の立つヤツめ とか
呼んだわよね』

と、言ってみた。


とたん、
ごほっ、ごほっ、と
彼はむせ、

『ああ、ひどいことを
あれこれ言ったものです
もしかして、全部、
覚えているのですか?』

とうろたえた。


無論、覚えていた。

(女とはそういうものだ)


が、首を振った。


『ううん、もう忘れたわ。
毎晩、じゃがいものカラアゲを
作らされたこともね』

『すまないことをしましたね』

『いいのよ、楽しく
作っていた頃もあったんだから』

『そんな時期もありましたか』

『ええ、そりゃあ』 




店を出て、ふたりで
銀杏の木のしたまで歩いた。

箒を抱えた彼は
何か重大な秘密を
打ち明けるように

『実はいま、ロシアの
魔法学校で、校長をしているんですよ
自分で作ったんです』

と言った。


『へえ、知らなかった。
すごいわ』

『良い魔法使いを
育てたいと一念発起しましてね』

『あなた、悪かったものね』

『まあ、言い訳はしません』

『今も、お城に住んでいるの?』

『いや、アパート住まいです。
城は学校を作るために
売ってしまって。
今は本だらけの部屋に
黒い猫と暮らしています』

『ふうん』



かつての夫
大魔法使いツワッケルマンは
すっかり善人になったらしい。

(スズガエルの沼の黒い水
浄化作用があったのでしょう)




別れ際、彼は
魔法学校の名前を教えてくれた。

【ホークスポークス魔法学校】



家に帰ってから
彼が作ったという魔法学校を
Googleで検索してみた。

りっぱなホームページが出てきた。

ロシア語はもちろん
英語、ドイツ語、フランス語
はたまた、中国語 日本語でも
読めるようになっていた。


わたしは、iPhoneを
耐水カバーで包み
 ローズゼラニウムの精油を
垂らした湯船に入り


曇り止めのレンズが入った
老眼鏡を時折、鼻梁から
ずりあげつつ

『ふむ、ふむ』

と、じっくりと読み進んだ。



魔法学校の初級生の
一番最初の授業は

【じゃがいもの皮剥き】だと知り
つい、声を立てて笑った。


(その時のわたしの笑い声は
とても朗らかだった)



かつての夫、
つまり、ツワッケルマン校長は

その魔法を習得するにあたって、
自ら、注意書きを書いていた。


『じゃがいもの皮剥きといった
自分にもできることを
魔法で簡単にすまそうというのは
あまりよくないことです。

誰かのためにじゃがいもを剥く
或いは、誰かがあなたのために
じゃがいもを剥いてくれる 
 ということは、人生において
大変にすてきなことなのです。

もし、あなたがたが
この魔法を習得しても
時には、愛するひと
大切なひとにじゃがいもを
剥いてあげてください。

そのほうが魔法でするより
実は、美味しいのですよ』


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  大どろぼうホッツェンプロッツ扉絵


わたしのこころは
湖のように、澄んだ。



(fin)




みなさま、いかがだったでしょうか?

空想ごはん、美味しかったかしら?



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最後にこのオハナシに出てきた
お料理をご紹介して、終わりにします。


マッシュポテトと芋団子
じゃがいものカラアゲ
*これらは記憶のなかで

ピロシキ
*中身は、肉と豆

ボルシチ
*サワークリーム添え

ロシア風餃子
*玉葱のかたちの青いポットに
入っていた

ロシア風紅茶
*薔薇のジャムをたっぷり

アイスクリーム
*ウオッカをふりかけて

誰かのために剥くじゃがいも
*未来のために。





長々とお読みくださり
ありがとうございますの
sioでした。