[essai]

舟歌ノ帷 

 


幻影のような記憶の中で、私はまるで水玉の一つ一つを繋ぎ合わせるかのように、ある歌手との奇妙な縁を紡ぐ。

 

彼女のCDもプレイリストも持たず、しかし彼女の存在は常に私の人生の周辺を漂う。

 

この話は、高級料亭での舞妓としての日々から始まる。

 

そこで、未知の芸能人との出会いの噂が渦巻いていた。  突然のキャンセル。

 

その理由は「私はおむすびが好きだ」

 

この言葉が、バブルの名残りを遺す世界で、私の心に衝撃を与えた。

 

高級志向とは裏腹に、彼女は素朴なおむすびを選んだのだ。

 

それから私は、彼女の歌に耳を傾けるようになった。

 

カラオケで彼女の歌を歌うことは、私の声とは不釣り合いだったが、それがまた別の喜びを生んだ。  

 

そして、ある日、神社の玄関で見たテンペラ画。

 

それは彼女が描いたものだった。

 

この出会いは、私の彼女に対する憧れをさらに深めた。

 

そして、彼女の訃報を聞き、思い出したのはその歌だった。

 

「お酒はぬるめの燗がいい、肴はあぶった烏賊でいい」。

 

私の好きなものは、今も変わらない。

 

おむすびと、お酒はぬるめの燗と、あぶった烏賊。

 

そして、ぼんやりと灯る灯りの下で聴く、遠い舟唄のような彼女の囁くような歌声。  

 

この物語は、ただの回想ではない。

 

それは、時間と空間を超えた縁の不思議さ、そして人生の摩訶不思議な巡り合わせへの敬意を表すもの。


私の人生に織り込まれた彼女の存在は、予測不能な縁の神秘そのもの。

 

彼女との出会いはなかったが、彼女の言葉、彼女の歌、彼女の画が私の心に残る。  

 

『おむすびが好き』という言葉は、豪華さに埋もれがちな世界において、真の豊かさを教えてくれた。

 

それは、シンプルながら深い味わいを持つおむすびのように、人生の本質を映し出す。  

 

私は今、占い師として、人々の運命を読み解く。

 

 

女占師 ⓒ米[mai]

 

 


しかし、この物語は、運命よりも強い何かを私に教えてくれた。

 

それは、人生の中で最も単純な喜びが、時に最も深い感動を呼ぶこと。

 

そして、偶然の出会いが、最も意味深い縁を結ぶことだ。  


彼女、八代亜紀さんの歌は、今も私の心の中で響いている。

 

それは、過ぎ去った時代の舟唄のように、静かに、しかし確かに。

 

そして、私は知る。人生は、予測できないほどに美しい。

 

 

 

けふの月 筆者撮影

 

 

 

 

 

暗闇の中、悪しきことを描く創作は、ある種の光を放つ。

演じることによって、他者の理解を深め、生命の温もりを感じ取る。

この感性は、人間の本質に触れるものであると私は信じる。  

八代亜紀さんの存在は、まるで暗い舞台の上で一筋の光を放つようなものだった。

彼女は、表現を通じて、私たちに深みと多面性を見せてくれた。

その声は、命の温かさを伝え、心の奥深くに響いた。  

彼女の教えは、創作の中に潜む暗闇を恐れず、そこから命の輝きを引き出す勇気を与えてくれた。

表現の中で悪を演じることは、実は最も純粋な善の探求なのかもしれないのです。  

今、八代亜紀さんの旅立ちに際し、私は深い哀悼の意を表すとともに、ご冥福を心からお祈りします。



 

水晶占い師|米[mai]
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