うわぬりした『芸事をならいたい』は | 魂の選ぶ声を聴く ~言葉にならない想いをつなぐ~

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無意識のストレス反応を意識的に変化させて
気づきと自然治癒力を高め 自分や周りのひとの存在に光をみる人生を楽しんでいます

吉(きち)は 煙管をふかしながら

火鉢の前の少し向こうで

顔をおおって泣いている 軽(かる)を見ていた

 

 

・・・泣くのも 無理はないだろうねぇ

さっき 出かけて行ったねえさんたちも

この娘より 2つ? いや 3つ小さい 多世(たよ)もさぁ

あの娘らぁ より

この娘の方が 出来がよさそうだもんねぇ

 

そうは言っても

うちに

この娘に金とひま

かけてやる 言われはないしねぇ

 

 

「・・・ふん」

 

 

 

吉は 胸がちくりとしないでもないのを

 

「・・・泣いたって どうにもなんないよ

戻りな」


とやりこめて

火鉢に煙管を打つ

 

 

 

 

泣いていた軽も

吉のことばに

感じるものを奥に沈めたのか

ゆらりと立ち上がった

 

 

 

仕事に戻る軽の細い背中を見やったあと

 

吉も 軽に芸事を習わせてみたらどうなるか

という やりもしない夢想をふるのだった

 

 

 

 

 

 

 

自分も お家のお嬢さんたちのように

芸事をならいたい

お師匠さんの話が聴きたい 

 

軽の望みは 叶えられることなく

軽自身も忘れたのか 

自分の望みを別のものにうわぬりしたのか

 

お家のしごとと わが身の暮らしを

生きた