それは、はっきりした変化ではなかった。


世界が変わったとも、

自分が変わったとも、

シルフィアは思わなかった。


ただ、

戻ろうとしたときに、

戻れなかった


場を支える手順。

いつもの速度。

いつもの流れ。


それらを再現しようとすると、

身体が一瞬、ためらう。


拒否ではない。

拒絶でもない。


合わない。


そして、静かに進んでいた。

場を支える役目は、次の支え手に託されていたことを。


願っていたはずのこの光景に、

シルフィアは戸惑っていた。

なぜなら、初めて――

義務を捨てようとしていたからだ。


肩の力が少し抜ける。

自分がここにとどまらなくても、

場は回る。

世界は、次の支え手に委ねられていた。


シルフィアは、

その日の場を支える行為を

一刻で閉じた。


理由を丁寧に並べることはしない。

言葉は最小限で、謝罪も、過剰にはしない。


その選択が、思っていたよりも

静かに通ったことに、彼女は少し驚く。


世界は、すぐには反応しない。

責めも、評価も、追撃も来ない。

ただ、空白が続く


その空白の中で、

シルフィアは感じる。


疲労が、まだ残っていること。

それでも、壊れてはいないこと。

そして何より――

自分の身体を裏切らなかった

という感覚。


これは達成感ではない。

誇りでもない。


ただ、

深いところで噛み合った感触だった。


泉は、

一瞬だけ水面を揺らす。


それは、回復が進んだ合図ではない。

これ以上、無理を重ねないでいい

という確認だった。


シルフィアは、

次に何をするかを決めない。

今日は、ここまで。


その区切りが、

世界の都合ではなく、

身体の感覚で置かれたことを、

彼女は忘れない。


この日を境に、

シルフィアの感覚は少しだけずれる。


前より遅く、

前より静かで、

前より確かに――

自分のものになる。


良くなったわけではない。

強くなったわけでもない。

ただ、戻れなくなった

そしてそのことを、

世界より先に、身体が知っていた。