ふだん
大声で叫ばない雪が
泣きわめくことがある
ひどくわめいて
やまないことがある
くやしいくやしいと 泣いている
泣きわめくのに
声にはならない
カーテンをしめれば
その声、私にもきこえない
部屋の天井のすみっこが
夜中にぴしりと きしむだけ
そのせつなさに 耐えかねて
わたしの心のすみも
せめて ぴしりと鳴ってほしい
大声で怒鳴らないひとたちの
ことばが
結晶する夜です
ふだん
大声で叫ばない雪が
泣きわめくことがある
ひどくわめいて
やまないことがある
くやしいくやしいと 泣いている
泣きわめくのに
声にはならない
カーテンをしめれば
その声、私にもきこえない
部屋の天井のすみっこが
夜中にぴしりと きしむだけ
そのせつなさに 耐えかねて
わたしの心のすみも
せめて ぴしりと鳴ってほしい
大声で怒鳴らないひとたちの
ことばが
結晶する夜です
庭のさくらの枝先に、
枯れたこうもりの影ひとつ
ぶらさがっているのをみました
もう役立たずのいちまいだと
まわりの木々がさとしても
風雪を耐えて、つないだままの
あの一枚はなんでしょう
もしかしてその一枚は、
十年前から、そのままだ
わたしが気づかなかっただけ
はっぱがはっぱであったとき
あなたに送ったいのちの歌を
忘れたくなくて 忘れられなくて
あしがもつれて
おいつかなくて
あたまからころんで
おとをたてる
おおもりはまの
はまべのなみよ
そうして
たおれたときにこそ
うたをうたい
がっきをならし
ことばをさけんでみたいとおもう
うそも教育も
ぜんぶはがれて
ざばんとあふれるものだけが
きっと生まれてくれるだろう

ホイール
流れ着いていた
だれかの
うしなった漂流物
届ける場所を
まちがっていても
返す場所を
まちがっていても
あなたが必死に
抱いてきたそれは
わたしが
めをつむってきたなにかだ
わたしが
忘れてきたうただった
目に映るしろかべ
柿色に ぽうっと明るくて
また電球を
けさずにねたんだ
消灯ボタンに
てをのばせば
電球は 蒼白く
ねむっている
あさひだ
どうしてけせるものか
手もとの こんな
ボタンひとつでー
ふいになみだが
でそうになった
あなたの存在も
そのような光だ
雪がつもって
また 晴れた朝
ゆきむしが 飛んでいた
厳しい氷の世界の どこに
その身の シェルターが
あったというのか
枯庭 暫くみつめていた
ゆきむしが 飛ぶ。
無言の大地の
手のもとに 守られ―
その
小さな わたむしの ひとつが
まるで わたしに 見えたとき
景色のすべてが
あなたに見えた
ゆきむしの飛ぶ午後
素敵な女性を おみかけした
とても好きだった 作曲家さま
その方、とある有名な
先生のお弟子さまでした
お師匠は亡くなってしまったけれど
ふたりのお仕事は確かに一体 ひとつの世界を作ってらした
お呼びとめすると
歩みを戻してくださった
先生はなにをどのように
あなたに 教えられたのですか…
どうしてそのように 在れるのですか…
きけるはずもなかったけれど、ずっとお尋ねしたかった
澄み渡る旋律の 沸く始まりを
彼女は、目をみてうなずいてくれた
やさしいほっぺに、戦士のような厳しさはなかった
―先生がおしえてくださったのは
わたしに何が できるのか
おだやかなひとみの向こうから
そんな答えが 聴こえた気がした
たえない泉の 沸くおとだった
昨日 いつもの風景のなか
階段のうえに ひとつのかげ
先生だ、すぐにわかる
こどもたちを 見守っている 確かな背中だったから
ふりむけば やっぱりそう
誰も傷つけないような 冗談をいって
がはがは お笑いになる
またすこしして見れば
階段の上に まだいらっしゃる
その肩幅が むかしよりも 大きく見えた
やっぱり先生 スーツの下に 羽があるのを隠しています
そのように いつも これからも
飛び立とうとして 色んな顔する
子天使たちの はばたきに
無言の声援 まなざしは降る
その背中、
街角で見る 映画ポスターのようだった
心のシアター 赤じゅうたんの長廊下
この壁に 内緒で かかげておきます
作品の名前 あなたの名前を刻みます
あなたが
真珠になったころ
そっと 拾いに参ります
もう誰も
それを盗人だとか
どろぼうだとか
言わなくなったぐらいの頃に
ひとの 見なくなったころに
磨かれたその結晶に
ささげたい言葉
にぎりつつ
(*称名寺 紫陽花 八月)
あんなに
うるさいほどだったのに。
いつしか
日暮れから夜にかけ
鳴く虫はたった一匹になって
昨日までは、裏庭で
今日は、前庭で鳴いている。
たった一匹になったのに
テンポを早めることもない。
それ以上、叫ぶこともない。
歌う歌は一生に
この曲、たったひとつだけ。
そんな歌を、持てるだろうか。
そこまでに信じられるひとつを。
窓に近寄れば
幾千の 鈴玉の歌がきこえだした。
こんなにも庭中で鳴いていたこと
信じられないくらいにおもった。
わたしにはずっと
あなたの声しか聞こえなかった。
もしも、呼ばれているのなら
いますぐ草むらに出ていきたい。
たったひとつを信じてうたう、
あなたを目指して出ていきたい。
