ワゴン車の中で、見ていた小さなポラロイド写真をリュックにしまうと、彩は改めて耕輔に問いかける。
「…五竜が、本当に見つかったんですか?」
「さあ」
何故か一旦私服に着替えさせられ、変更内容を聞くとなんとも頼りない情報の元に組まれていた。
火の五竜候補の女性に会って確かめてこい。要約すればこんなものだろう。
五竜――5人の特殊体。バディの竜に、自然的な力が備わっているD-child。
「まだ3人居るんですよね」
雷の五竜、岡耕輔。
風の五竜、石崎彩。
今日接触するのはカップルらしく、少し嫌だ。
耕輔の横に座った彰が資料を読み上げる。
「対象は相模京香。21歳女性、バディは優斗で22歳よ」
ちなみに、と耕輔が付け加える。
「可能性は40%だと」
「…低いですね」
驚いた彩が聞き返す。三日前に耕輔が接触した男性は、たしか80%だったのにハズレだった。確実に骨折り損ではないか。
「どうして、そんな対象に風と雷両方で接触するんです」
晃が耕輔を睨みつけ、脚を組み直す。
五竜同士がお互いを見分けられるため、対象には五竜の一組が接触するのが常だが。いつもは耕輔と彰が担当している。
「俺に聞くな。上から言われたんだよ」
飄々とした態度がさらに晃を苛つかせた。
本当は彩を慣れさせる為だが、喧嘩を売られて黙って居るなど無理だ。あえてとぼけてやった。
「そうですか」
切れ長の目が耕輔をきつく睨みつける。
「ちょっと耕輔」
「晃も落ち着いて、ね?」
出会った時からの犬猿の仲な故に、2人揃うといがみ合っている。そのたび彰と彩が止めるため、大分迷惑な事だと2人は気づいてないだろう。

「耕輔、着いたわよ」
彰が耕輔の肩を叩く。
いがみ合いから十分、車は目的地に到着した。
「…ボーリングじゃん」
車から降りた彩が呟く。
平日の昼間だからか、人があまり多くなく人探しは楽そうだ。
「ほら、ターゲットの写真」
耕輔から手渡された一枚の写真には、楽しそうに笑う男女が写っている。
「うわ、凄い美人。彼氏もイケメンだし」
きゃあきゃあと楽しそうに晃に写真を突き付ける。晃は興味が薄いのか、ちらりと見るとふうん、と写真を彰に返した。
「興味無いの?あ、そう言えばボーリング久しぶりだ!」
「彩ちゃん、行きましょう」
はーい、と返事をし彩は楽しそうに建物に入っていった。

「ねーねー晃、写真の人が五竜なのかなあ」
ダブルデートのふりをした4人は、対象から2つ挟んだレーンを借りさり気なく様子をうかがう。
怪しまれないように、一応ボーリングもするらしい。今は耕輔の番だ。
「たぶん、ね」
ピンが勢いよく倒れ、気持ちいい音が響いた。ストライク。
「たぶん?」
こくりと晃が頷く。
「気配みたいなのが小さくて、上手く隠してる感じがする。…本当に五竜なら、相当強い」
彩が口に含んだジュースをごくりと飲み込んだ。後ろでは、彰が投げたボーリング玉がガーターにゆっくりと入っていった。
何かを言おうと彩が口を開いた瞬間、悲鳴と何かが壊れる音が響いた。
「何!?」
「彰、あれだ」
彩たちとは反対の右端のレーンで、若い男性2人が喧嘩をしていた。問題なのは――
「両方D-childじゃん…」
お互いが竜を暴れさせている。2体とも柴犬ほどの大きさだが、破壊力はそこそこあるので流石にまずい。
「テメェが先に手ぇ出したんだろうが!」
「黙れ!」
様々な罵声が飛び交い、野次馬には煽る人も多い。
「D警呼ぶか」
「あ、もう店員が電話したっぽいです」
野次馬から少し離れた場所で、4人はため息をついた。
流石に五竜はもっと重大な任務につくため、素性は極秘扱い。つまり、目の前の喧嘩を止めることは出来ない。
「もう、あの2人見失うじゃない」
彰が周りを見渡すと、顔が強張った。
キョロキョロと忙しく首を動かした後、やばい、と呟やいた。
「どうしよう耕輔、ターゲット見失ってる!」




補足あせる
D警:D-childの警官によるD-child特別警察
主にD-childによる犯罪に対処する


蒸し暑い夏の昼下がり。
白百合国にある組織、夜月の本部棟から3つの人影が出てきた。
「あちー…」
紫苑が心底嫌そうに唸る。新しい任務を受けて、簡単な準備をしに宿舎棟にもどるのだが、その道のりは気温が凄い。
「なんで建物どうし繋がってないんだよ…」
着崩した着物の胸元に汗が流れた。
「仕方ないでしょう、それより早く用意しないと」
「そうですね…」
朧も暑さに参っているのか、元気がない。
時雨の言葉に渋々同意し、3人は宿舎棟へと急いだ。


「あれ」
宿舎棟に着き、個々の部屋に戻ると荷物をまとめる作業が待っている。
荷物と言っても、各々の武器と個人的に必要な物だけだ。目的地である隣国、葉桜国までの移動日数の数日に必要な物は国が用意してある。
「替えの鎖どこだっけ?」
たしか、最後に出したのは一昨日の任務後三人で寄った紫苑の部屋だったはずだ。
「あー、聞きにいかなきゃ」
蜜色の髪をかきあげて、まとめ終わった荷物を抱えた。
「朧、入るわよ?」
時雨の声の後に扉が開き、時雨と紫苑が入って来た。
「紫苑さん、俺鎖忘れてませんか?」
「ん、これだろ。床に転がってた」
ありがとうございます、と礼を言い差し出された鎖を荷物に詰め込む。
「んじゃ行くか」
紫苑を先頭に宿舎棟を後にし、用意された車を目指す。



「あー、一週間か…」
城下町の外れへと歩いている途中、紫苑が何回も同じ事を呟いていた。
いい加減鬱陶しくなったのか、時雨がため息をつく。
「時雨さん、もしかして紫苑さんってこれが終わったら」
朧が何かを思い着き、時雨を見た。こくりと頷く。
「しごかれるみたいね。みっちりと」
「…ちょっと同情します」
紫苑が恐れているのは、恐らく、と言っても当たっているだろうが、紫苑の師である葵班長の和也だろう。

「どうやって逃げようか…」
「いつも捕まってるくせに」
夜月最強の葵班を纏める和也は、いつも笑顔で丁寧な言葉遣いの青年だ。
ゆっくりとした喋り方とは対照的に、その実力は突出している。
弟子の紫苑との模擬戦は、紫苑がボロボロにされて終わるという恐ろしい物だ。

「そう言えば、夜月の班を増やすって話はどうなったんですか?」
現在の夜月を構成する五班だけでは、任務に対応しきれていないのだ。オマケに、実質任務に就いているのは葵・紅・翡翠の三班であり、残りの黒曜班は隠密諜報を、緋藤班は王家の守護をしている。
「今年は養成所が悩むくらい卒業が少ないしね。良くて延期じゃない?」
用意された車が見え始め、少し足を早く進める。

「お待たせしました。紅班です」
さっきまで愚痴っていたとは思えない態度で紫苑が謝罪する。その横に時雨、朧の順で並ぶと、送迎の男性が頭を下げた。
「皆さんの送迎をさせて頂きます、長谷川です」
顔見知りの車屋と少し言葉を交わし、3人は車に乗り込む。葉桜国までは此処から2日とかからず着くだろう。
「今日も頼むぞー、車屋の五代目」
「はい」
ガラガラと車体を揺らしながら車が走り出した。

人物紹介キラキラ

夜月紅班
・班長 紫苑
21歳の青年。武器はサイ×2
・時雨
21歳の女性、超絶美人。武器は薬物と戦闘扇

・朧
18の少年。武器は鎖鎌




台風小話台風

「ぎゃああ!!!」
夜月本部の一室で、若い男性の声が響いた。
扉には紅班と書かれている。
「紫苑、動かないでって」
紫苑の背中に薬を塗っている女性が肩を押さえた。
「し、時雨、お前わざとしみるヤツ使ってんだろ!?」
「紫苑さん、動かないで下さい!」
朧まで紫苑を押さえつける。
「打撲なめたらひどいわよ?」
くるくると包帯を巻き、終わりと肩を叩く。
着物を上半身脱いだままの紫苑は朧を睨んだ。
「くっそ…」
薬箱を片付けたあと、時雨はお茶を入れにいった。
朧はというと、紫苑の視線から逃げるように背を向け好物の干桃をたべている。少ない休暇に見られるいつもの風景。
明日の任務の過激さを考え、三人はため息をついたーー