東京パピヨン -2ページ目

091:命 (香山凛志)


 いま楡の眼をしておりぬきみなれば命生れしは深夜と思う

 

090:質問(香山凛志)


 質問というきだはしを組み立てて汝に近づくための夕暮れ

 

089:こころ (香山凛志)


 平らかな石を水面に滑らせて愛とはゆめを縊るそのこころ

 

088:暗 (香山凛志)


 暗闇のシュプレヒコールやさしくて日が昇るまで河原にひとり

 

087:テープ (香山凛志)


 何度でも声を解くよ擦り切れたテープに遠いとおい約束

 

086:石 (香山凛志)


 耳元のトルコ石弄びつつ愛され損ねた日々を思えり

 

085:きざし (香山凛志)


 咲くきざし朽ちるきざしを共に持つ一輪挿しのなかの共鳴

 

084:退屈 (香山凛志)


 夕立に水漬く鉢植え退屈を許し続けたわたしへの罰

 

083:筒 (香山凛志)


 汝がために幾度でも書く抒情詩を統べる封筒なら薄緑

 

083:筒 (香山凛志)


 汝がために幾度でも書く抒情詩を統べる封筒なら薄緑