前回はコンプレックスが人の好みに大きく作用していることの概要をお伝えいたしました。また、元型と自我との作用についても言及しました。元型と自我とが作用することにより、人間はかなりクリエイティブになれることがわかりました。しかしながら、非常に苦しむことも理解できたと思います。そして、クリエイティブなその考えは誰しもが一度は通過する道であり、芸術家や哲学者、芸能人のみが歩む道ではないこともご理解いただけたと思います。換言すると、最近では身近な存在となった芸能人は、常に、その苦しい環境下に置かれており、その苦しいのを「苦しくない」ように見せる努力をするのが芸能人でありまして、そこで生まれる強烈なエネルギーを見る側が感じ取ることにより、両者の関係が成立しております。要するに、芸能人に自分の内なるものを投影しているわけです。
ここで芸能人が深く考えなければならないことは、芸能人を見て投影している客体があり、その投影され方によりファンの数が決まると仮定することが可能であるということです。ここから考えられることは、では、どのような投影をしてもらえるかについてを真剣に考えなければなりません。芸能人が考えるべきマーケティングとは客体の心の中のマーケットを知ることであるところがまた面白いのです。マーケットを知る一番簡単な方法は、元型を投影してもらうことですが、元型というのは全人類に共通でありながら、それゆえ、あまりにも元型を出しすぎると逆効果となります。なぜなら、全人類に共通するほどに「単純」なものだからです。ここに少しひねりを加えるためには「コンプレックス」を使うのがいい方法であります。ここでは心の3層を個別に語っておりますが、実際は、元型が自我に作用するとき、コンプレックスに自動的に影響することが多いです。ここで、元型が脚色され、「好み」が発生してきます。要するに、全人類を取り込むことが非常に難しくなるわけです。考えてもみてください。ある特定の人物が世界を操るようになると大変な事態になりますし、またそのような人物はこれまで現れたことがないことを見ると、世界征服などできないような心理的システムが人間には備わっていると考えて良いでしょう。これが性善説と性悪説のどちらに偏っているかについて私は言及しませんが・・・人間というのはよくできていると思います。
ところで、人の好みですが、私の親しい男性の友人のことを例に考えてみましょう。この男性は私と同じ年齢です。そして心身ともに非常に健康な人物です。家庭も持っております。彼は私のよき理解者であり協力者でありまして、これほどまでに心を通じる人物は実のところいないと思っております。しかしながら、女性を見る目については非常に異なっており、これがなぜかということですが、コンプレックスに由来しているとしか考えようのない現象を観察できております。
まず、彼は学生のころから一貫してある女優さんのファンでありまして、付き合う女性、それ以外の芸能人を応援するときも、常にその女優さんと似ている人であるのが大きな特徴であります。そして、その女優さんに似た人物が実際に目の前に現れると体が硬直したようになり、普段はよくしゃべる典型的な関西人なのに、とんでもなく緊張し始め、息苦しくなり、その女性が「嫌い」なのか?と思うほどの症状になるのです。そして第三者として私が存在するのですが、その女性は私からしてもとても美人で、そこにきて人柄も良ければモテるだろうなとは思うものの、それ以上の感覚に陥らないのです。ここが面白いところです。私の友人と私は共にその女性を「美人」と評価するのですが、私はそれ以上の感覚に襲われない、要するに、アニマを増大させることができないのですが、私の友人はそのアニマが極限の状態にまで引き上げられ、全身が硬直するに至るわけです。私はこの現象が若いころから続いていたことに長期間にわたり不思議に思っていたのですが、心理学の専門家を目指すにあたり、あれは彼のコンプレックスに由来するのでは?と考え始め、これまで彼が決して語らなかった事実を聞き出すことができたのでした。
一見すると彼はものすごく恵まれた環境で育ってきたように思っていたのですが、彼の母親は実の父親の再婚者であり、実の母親ではないと教えてくれました。そして、実の母親は彼が9歳の時に亡くなったとも教えてくれました。そこで私は問いました。それは、「君の実の母親は、君がファンである女優さんと似ているのだね?」というと、それを認めてくれました。要は母親コンプレックスが大きく影響していることが判明したのです。彼自身は母親コンプレックスを持っていることを当然、気づいていません。しかしながら、事実関係を整理すると、彼のアニマが母親コンプレックスと結びつき、それを自我が感じ取り、彼の女性の好みが固定化され、そこに「好み」が出てきていることを知ることができます。このように、人によりコンプレックスに違いがある分、好みも十人十色となるわけです。では、どうすればファンを一気に取り込むことができるのか・・・となるのですが、これは芸能人にとっては大きな問題ですね。
これは対象を個人に向けるから、個人に対する好みというのが出てくるのです。これを地域に対してとか、国に対してというように、対象の範囲を広げると、その問題は解決できるかと考え、今現在、私はその理論を実証するために動き回っております。
では、まだ仮説の域をでませんが、次回からはコンプレックスの対象を地域に拡大したときにどうなるかを考えていきたいと思います。ご高覧、ありがとうございました。