心の磁力の活用(具体策 16 布置を考える 2) | 芸能の世界とマネジメント

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前回は布置に対する考え方は古くから存在し、とりわけ、中国では世界に先駆けてその思想を発展させていったと申し上げました。ユングはいろいろと研究していくうちに中国へ行き、そこで易経とか道教に出会います。その中国思想を学ぶ上で「自己(セルフ)」というものを「道」という道教、いわゆる老荘としての考え方に着目し、考えつくようになりました。実のところ易経という儒教の起源と道教という老荘の起源のもとは対立する考え方であるので、そこの部分を一緒に組み入れたユング心理学をどのように解釈するかについてをいまのところ研究中であるのですが、いづれにせよ、老荘は儒教が発端として起こった対立思想でありまして、古代中国哲学や文学を学ぶものとしてはこれまた不思議と、それらのこと全てを学ばなければいけない事実がありまして、その意味で「対待」という考え方は現代の、それも中国からすると外国の文化にもいまだに強く残る思想であることがわかります。

ところで、今回からは布置を使った具体策をやっていかなければならないのですが、私の基礎研究編の実学道のブログでの進捗を遅らせておりますので、布置における具体策についてはまだ行わないようにします。しかしながら、布置というのは現代においてはより一層に興味をお持ちの方々が増えてきていることもあり、その活用例を見ながら話を進めていこうと思います。布置に関する基礎的な注釈に関しては実学道のブログにて行いますので、こちらのブログにおいては先に実践例を示しますのでよくわからないこともあるかと思いますが、わからなくても無理に理解しようとせず、わからないまま読んでいただいたら結構です。布置に関する本当の理解は臨床経験がなければ不可能なので、その意味で、一般の方々はユング心理学の核心部分についてはほとんど何もわからないままに終わっていくわけですが、それもまたユング心理学の特徴であります。ところで、ユング心理学のもっとも核心とすることは夢分析であります。夢分析を行うことにより、相談者の無意識に治療者が接近しようとするのですが、その理由についてはもう一つのブログにゆずりまして、では具体的に夢分析はどのように行われるのかを見ていきたいと思います。

最近はネットなどで夢分析のことが流行しているとのことで、その関心の高さに注目しているのですが、夢分析とは一言でいうと、相談者の無意識に接近する方法であるわけです。しかし、無意識とは人間が意識できていない部分でありますから、夢において出てきた無意識を人間はそのまま受け入れることはできません。また、治療者は相談者の過去の生きてきた履歴を知りませんから、なぜそのような夢を見たのかということを知るために「布置」という考え方を導入することにより、その夢に「命」を盛り込むのであります。これはユング派の分析家の公演を聞いたことがあるとか、実際にカウンセリングを受けた人ならご存知かと思いますが、その演者が、「その母への投影がアニマがそれ、そこに布置していて・・・」などと専門用語を並びたてて全くわからんわ!!と感じた方も多いと思いますが、夢分析と布置との関係は非常に深く、また、その状況の配置という意味においてコンプレックスを見ていくのにこの布置を導入していくことにもなり、これらのことでもお分かりのように、布置というのは非常に重要な考え方であるといえます。では、実際の夢を皆様方にご覧いただき、布置の実際例を考えてみようと思います。

14歳少年の夢:

それまでの経緯はよくわからないが、突然、家族が居間に集まり家族会議が始まろうとしていた。母親に呼ばれたので行こうとするが、なぜ家族会議が行わるのかについては不明である。

私はそれまでにない不安を感じました。なぜなら、家族が集まろうとしていたからです。そして、家族がすべてそろい、父親が言い出しました。「自分と母親は離婚することになった。お前たちは私(少年の父親)と一緒に明日から別の家で私と暮らすことになった。これは決まったことだ。」

私はその時のあまりに悲しく、辛い感情を覚えた瞬間に目が覚めた。



さて、この14歳少年の夢をどのように見るのかですが、ここでプロファイリング、要するに布置が必要となるわけです。ちなみにこれは初回夢です。まず、14歳少年といえば思春期のストライクゾーンであります。要するに、人生の中で精神的に一番の山に差し掛かる年齢であります。そしてこの少年はなかなか裕福な家庭に育っており、生活に関しては贅沢ができる家庭で育ちました。何不自由ない家庭、そして両親ともども非常によくできたご両親で、お金もあれば人間もできている両親のもとで14年間育った少年はなぜか「トルエン」に手を出します。警察に補導され心理療法を受けることになりました。まずトルエンですが、トルエンという溶剤は通常は少年では購入できません。しかし、ネットから入手し、それを吸引するようになるのです。なんといいますか、布置に「ネット」なるものが入ってくることが最近の布置の傾向でありまして、布置の考え方もアップデートしないとこのようなケースには対応できないこともあります。また、この少年が裕福層の家庭で育ち、理解のあるご両親は少年に事あるごとに現金をわたし、使い道については少年を全面的に信用していたといいいます。というのも、彼は成績も優秀で、さらに、それまで問題行動を起こしたこともなく、トルエンの吸引も常時ではなく、時々使っていたという状況です。常時使用なら親も異常に気付くのですが、時々、しかも少量では気づかなかったということです。要するに、利口な少年であったわけです。

ここで問題となるのはなぜ少年は生きるという行動に対してトルエンを必要としたのでしょうか?生活に苦労はない、しかも必要とあるならば現金は必要な分、手にすることができる。なんの不満があるのでしょうか?その謎の部分が夢に現れております。まず、両親の離婚という部分ですが、その時に母親ではなく、父親に引き取られるということにおいて非常に強い感情を伴ったという点に着目していただきたいのです。いつも困ったときに相談するのは、両親がいる場合、通常は母親となります。この少年も例外ではありませんでした。トルエンを買うお金が必要となった時、別の理由を告げて現金を手渡していたのも母親でした。事あるごとに母親はこの少年のよき理解者であったわけですが、少年は少年から大人へと進化を遂げようとする年齢であります。要するに「親離れ、子離れ」の適齢期に差し掛かっておりました。しかしながら、少年の家庭は非常にいい家庭でありました。そしてその少年も非常に利口な子供でありました。それが逆に災いし、親離れと子離れを阻止しようとしておりました。母親は離れようとする少年を引き戻し、少年はそれに従うしかない。しかし、少年は母親から離れていかなければならないことを無意識のレベルでしっかりと感じ取っています。ゆえに、父親に引き取られることに強い抵抗感があるわけです。いわゆる「グレート・マザー元型」を象徴する布置が見事に出来上がっていることに気づきます。また、少年の夢は私たちにそのように語りかけております。

ここで問題として取り置きしておりました、「なぜ少年はトルエンを必要としたのか」を考えていただきたいのですが、これは少年が一時の快楽を楽しむためではないことはもうお分かりいただけるかと思います。そうです、彼は親離れするためにそのような行動に出るしかなかったわけです。あまりにもいい環境で育ったその少年は親離れするためにそれほどまでの危険を冒さなければならなかったのです。もちろんトルエンの吸引は違法です。しかし、その背景、布置を考慮すると、この少年に「トルエンは違法だからお前は非行少年だ。もう、勘当だ!!」などとやってしまうととんでもない方向へ進んでしまいます。しかし、そのような方向へと導かれ、大切な子供の人生を狂わせてしまう事例が多々あるのも事実です。幸いなことにこの少年は少年自身が利口であったこと、ご家族の素早い対応が功を奏して2回のカウンセリングで解決することができました。

いかがでしたでしょうか。夢分析と布置との関係を明らかにしたわけですが、今回の夢はかなり理解しやすい、深層心理学的には典型例としての夢をお届けしたのですが、このように、夢というのは無意識を可視化するのに非常に有効であるのですが、同時に、心という内界と現実という外界とを結ぶことが必要であり、それの手助けとなるのが「布置」であります。これを応用すると、私がロンドンのパブにて体験したような手法となるのですが、あれもやはり心理学としての臨床経験をもとにしておりますので、訓練をしていない人ではかなり難しい方法であることは確かです。

より詳しいことは次回以降に期待していただくことにして、今回はこれにて筆を置きます。ご高覧、ありがとうございました。