本シリーズにおける前回の話ではアニマにおける差別化が重要であると結論付けました。また、男性アイドルに関してはアニムスの差別化となります。これは、アイドルの場合はターゲットとする市場が最初から明確であり、女性アイドルグループであれば男性、男性アイドルグループであれば女性が主たる対象となりますので、このように対象が最初からはっきりとわかっている場合、まずはそのターゲットに向かい、ファンを獲得していきましょうというシナリオです。アニマ・アニムス像というのは投影する側の個人的無意識が非常に大きな影響を与えるため、たとえば、女性アイドルグループの場合、「美しくあればなんでもいい」わけではありません。あくまでも見ている相手のニーズに沿わないと、最初の食いつきは悪くなり、ファン獲得とまでには難しくなると考えられます。とりわけ芸能人は、ある特定のファンと長く、個人的に付き合いながら徐々にファンを増やしていくことができませんので、最初の見た目というのが非常に重要になってきます。そして、投影する側に個人的な好みがあるとするならば、そこに「差別化」という戦略を加えていくことにより、ペルソナというものを充実させていくことになります。
ペルソナの作り方については前回、既に提示しておりますのでそこを参照していただきたいのですが、では、差別化とは何かについてを少しお話ししようと思います。例えば、LinQというアイドルグループの構成員は全て10代から20代までの女性で、グループ共通のユニフォームを着用しステージに立ちます。年齢の標準偏差は低い状況の中でユニフォームを着用するとなると、自分の存在感というものが急激に損なわれます。そこでどのようにして自分を識別化してもらえるようにしているかというと、具体的には化粧の方法を変えるとか、体型を変えてみるとか、とにかく、一目見てわかるような、見た目による違いをはっきりとだそうとしているはずです。このように、基本となる土台は同じでありながら、そこに何らかの変化をつけ、他との違いを明確にしていく方法を「差別化」といいます。ポーターの差別化への言葉を使いますと、「業界内にて多くの顧客に違いを認めてもらい、競争相手より優位に立つ」ことになります。業界内というのは、グループ内などに置き換えると理解しやすいかと思います。また差別化は一般的に、「顧客価値創造」、「知覚価値の創造」、「模倣の困難さ」という3つの作用が働いて機能するといわれております。
そこで、差別化を簡単に行うにはどうするればいいのかということを踏まえ、マトリクスの活用をお勧めいたしました。それについては下記リンクより参照してください。
魅力、個性化、そして差別化における深層心理学的接近(深層心理学的差別化戦略 6 ペルソナ中級)
上記のマトリクスを使用するだけで差別化となるのですが、問題はやはり差別化というものをどこまで理解できるかということです。まず、マーケットのことに入る前にこの差別化についてもう少し踏み込んでおきたいのですが、ただ単に差別化だけを考えるのであれば、LinQのメンバーが個々に違う衣装を着たり、メンバーが個別の仕事を行ったりすればそれで事足りるのですが、一つのまとまった集団の中で、個別メンバーが個別に輝きを見せるためにはどのようにするかというのが一番の問題でありまして、つまり、同じ舞台で、同じ衣装を着用し、同じダンスを踊る女子集団が団体として一つでありながら個別であるという状況かつ、しかも個々は全て差別化され、違っているという状況を作れるかというのが差別化の一番の問題点であります。これは深層心理学における「個性化」の議論と酷似しており、芸能界の中でもアイドルゆえにこれほどまでに個性化と差別化の理論を展開できますから、実に経営学的に考察の意義があると思っております。
この、同じようで同じではない状況を把握した状況の中で、では、マーケットはどのようになっているのだろうかということを考えていけばペルソナという、言ってしまえば「見てくれの問題」ですが、その見た目自体に「個性」というものを見出していくことができ、そこに付加価値がつき、見栄えというものにかんしては相当な魅力を持つものとなると考えられます。
このように、実際の場面でペルソナの概念を適応させていく場合、「ペルソナの個性化」なるものが必要となると感じております。これは実学道のブログにて上級編としてその一部を書いておりますので、そちらもご覧ください。
魅力、個性化、そして差別化における深層心理学的接近(深層心理学的差別化戦略 7 ペルソナ上級)
ここまで言ったからには少しだけ結論に触れますと、ペルソナ、換言すると、アイドルや芸能人にとって、見た目がいいのはいわば当たり前のことでありまして、この当たり前のことをまずはやっていこうというのが狙いですし、その具体策というのが差別化、個性化、そして、前回に提示したマトリクスであります。少し厳しいかもしれませんが、芸能人は万人に晒され、そして評価を受ける立場の人間のことですから、この点に関しては厳しくなるのも必然であります。泣きたくなることの方が多いでしょうけど、自己実現に向けて頑張って進んでいきましょう。
ご高覧、ありがとうございました。