診療所から外を見ると、行きかう人と空の切れっぱしが見える。治療をしながら、身を屈めて空を見上げる。

ああ、今日も晴れだな、とか雨は続くのかな、とか。それだけなのだが。

今日の患者さんは、バレリーナだった。

踵が痛むと言う。

踊りも、50代を過ぎると体に応えることになるのだろう。

仰向けに寝てもらって治療を始める。

「よく寝られますか?」と聞く。良くありがちな質問。場合によって、沈黙を埋めるためだけの質問であったりもするが。

「それが、。。。」彼女が柔らかい声で語り始める。あまり、よく寝られないのだと。

少し前に友人の葬式に行ってからだと言う。

友人ではない。友人の子供の葬儀だった。

まだ幼い男の子だった。

お通夜に行って、。友人に会い、棺桶を覗いて子供の顔を拝ませてもらってから、寝られなくなったという。友人の悲しみが彼女に流れ込み、そのまま心を占めてしまったのであろう。

どうやって、治療をしてあげればいいのだろう。

治療の手を止め、また身を屈めて空を覗いた。