1.問題の所在

代理人として相続手続きを手伝っている。ゆうちょ銀行の口座解約が終り、三井住友銀行の国立支店で同じ委任状を出し、相続による口座解約を申し出た。相続関係図もあり遺産分割協議書もあった。ところが、驚いたことにこの銀行では委任状が不備だと言ってつっぱねられた。

その理由は、委任状の趣旨では銀行口座の名義変更とあるが、それでは口座解約は出来ないという。それでは、ゆうちょは失態をしたのだろうか。出て来た徳永と言う副支店長(と、名乗っていた。彼は、名刺すら渡そうとしなかった。) にゆうちょでは受けてもらった旨伝えた。彼はせせら笑ってそれは関係ないと言い放った。

2.委任状は、文理解釈を許容しないのか

事務所に帰って、なぜゆうちょは受けられたのか、と考えてみた。委任の範囲は確かに口座の名義変更と明記している(実はもう少しあれこれ書いてあって、読み様によっては相続手続き一切とも読めるが。ただし、副支店長は読めないと言い張った。)。

そこで、当事者の意思を推理して、この口座解約が受けられるか、である。結論は受けられると判明した。口座名義変更が出来ないとすれば、新たに当事者が口座開設するか、口座解約である。しかし、口座開設は現在ではほぼ本人以外は出来ない。とすれば、この委任状が口座解約を含み得るかである。名義変更が出来ないとすれば、一本道で解約しかなかろう。これについて、副支店長は、犯罪収益移転防止法を持ち出し、出来ないといった。彼はそれを犯罪収益げん防止法(聞いた時、私は初耳の法律だと訝しく思った。) と言って、知らないのかと馬鹿にしたように言っていた。もとよりそれは、この問題では見当違いの法律だが、それとも彼は私の依頼人を犯罪人と比定しているのであろうか。とにかく、知ったかぶりほど馬鹿馬鹿しいものはない。

3.銀行の責任の限界

銀行が解約した後、どのような不都合があり得るのであろうか。遺産分割の趣旨は、特定の相続人に特定の金銭を渡すことが目的である。名義変更はそのためのひとつの手段にしかすぎず、また口座に入金するかどうかも二の次である。相続人は、その金銭を当該銀行支店で新たに口座を開設して入金してもよかろう(こんな不愉快な支店は願い下げであろうが。)。他の口座に入金することも、何かに使うことも自由なのだ。すなわち当事者の意思の推測をすれば良い訳で、結局頭の体操なのだが、三井住友銀行はカスタマーオリエンティッドではなかったということだろう(場合によっては、電話で相続人に確認をすることもできよう。)。彼の、と言うか、この銀行の代理人に対する言われなき蔑視と共に、代理人をイジメることに汲々として、その背後に居る当事者の意向と都合を尊重していなかったのだ。

4.結語

平生民間銀行は相続の手伝いをすると盛んに喧伝している。しかしそれは、士業の業務を阻んでおり、いわゆる立派な非弁行為である。なぜ、公取が優越的地位の濫用で取り締まらないのか訝しく思っていた。それとも、お上は強い者の味方か。ゆうちょは相続の手伝いに関心が無い。民間銀行はそれで大いに儲けようとしている。それが申請者に対する処遇の相違として現れた。それで、士業をイジメているのか、ハハンと合点がいった。