2歳か3歳のころであったろうか。誰からもらったものであるかは、もう忘れてしまったが、「金の林檎」という絵本をもらった。私はその絵本が気に入り、くり返し挿絵を眺め、何度も読んでもらった。最後には文章を憶えてしまい、読み手が間違えて読むと指摘したそうである。

 ところで、その絵本の内容は、王子様が、幸せを求めて旅に出るというものであった。その王子さまは真紅のマントにきらびやかな衣装を着て、白馬に跨っていた。顔立ちは西洋人の青年で、凛々しいそして美しい顔立ちをしていた。昔の絵本はリアルな書き方をしていて、今の絵本のようなデフォルメしたり妙に芸術っぽい書き方をしていなかった。

王子は行先を決めるために、林檎を投げて、転がった方向に馬を進めた。人生はかようなものだ。極めて軽い動機に従い、その転がる方向に歩んでいく。もう取返しがつかない。それにはその人の全てがかかっているのだが。幼児のころも、絵本を覗き込みながら、時として偶然に左右されることがあることに戦慄した。