思い立って書庫を探した。ブルフィンチの「ギリシャ・ローマ神話」(岩波)である。先日亡くなった母が買ってくれた。野上弥生子の訳である。当時は気付かなかったが、夏目漱石の壮大な序が付いていた。これには驚いた。

読みたかったのは、「バウキスとピレモン」である。かいつまんで述べると、ある村に仲の良い夫婦が住んでいた。ゼウスとヘルメスが旅人に身をやつしてこの村を訪れる。二人の神は疲れて辿り着いたのだが、村人はこの旅人たちを歓待しなかった。村はずれに住むバウキスとピレモンと言う夫婦だけが彼らを迎え入れてもてなすのである。翌朝出立の時、二人の神はこの夫婦にお礼として何か希望を叶えてやろうと言った。彼らの希望は二人揃ってこの世を去りたいというものだった。願いは叶えられ、二人は最後に2本の老木になるのである。

老いていくに従い、妻に先立たれる事が何より悲しいことであるということに思い至った。自分が先に逝きたいものだと痛切に思う。その後、何年か家内が独身生活を楽しみ、その後あの世に訪ねて来て欲しい。しかしながら、独身時代はそんなに長くない方が良いかもしれない。周りを見ているとあまりに長い独居生活も寂しいものである。つまり、結論は一緒に死にたいとは思わないのである。