先日、2018年最後となる1125日に開催されたAMSのセミナーに出席させて頂いたが、逆子や更年期障害についての治療など、誠に示唆に富んだもので、とりわけ鍉鍼の活用など興味深いものであった。

 ところで、セミナーの中で三陰交についての話しが出た。考えてみれば、この経穴は不思議なものであると講師が説明をしておられたが、同感であるというのが会場内の雰囲気だった。その時の講師の説明では、郄穴でもなければ、原穴でもないが、枢要なツボであるということは紛れもない事実である、ということだった。会場内で参加者が三陰交についての印象を語った。不妊症治療では極めて良く使用される経穴の一つだろう、と一人が語った。冷えにも頻用されるのだ、と。それに対して別の参加者が、堕胎の際に使用することがあるとつぶやいた。筆者自身もこの経穴は妊婦には用いない。この経穴に刺鍼することによって、子宮が収縮すると言う記事を目にしたことがあるからである。ここは肝腎脾の交会穴と言われるが、いったい三陰交の作用は何か?ということが問題である。

 三陰交は足の太陰脾経である。太陰脾経は、足の親指外則から内踝を迂回するように這い上がり、脚の内側を昇って股関節を巡り、腹部の表面やや外側を昇って胸部に至っている。この経穴には有名な経穴が多く含まれており、例えば血海、陰陵泉、公孫などがある。

 試みに、様々な書籍に見える三陰交について略述する。

「血経帯胎産及び胞宮精室の諸病症の重要経穴であり、肝脾腎三経脈の血分病証に広く応用する」(陳志強「経穴の性能と主治」45ページ(傳統醫額學教育會))とあるが、主治として挙げられている症状は広範である。骨盤の中、すなわち子宮の血行をよくすることから、女性の疾患によく効くツボとして知られ、生理不順・生理痛や更年期障害を改善する。「婦人の三里」などと言われる。さらにその応用として、女性ならではの冷えやむくみ、便秘など、作用する範囲が広い。実に驚かされる。逆に、いかなる場合にこの経穴を活用するのかということについて、極めて判断が難しい。

 流注によれば、足の親指内端に起こり、親指内側赤白肉際を巡り、内くるぶしの前廉に上り、脛骨後縁に沿って膝内側に上り、大腿骨内側を上り鼠径部の衝門穴より腹に入り、府舎穴から中極穴、関元穴で任脈と会し、ついで本経の腹結穴、大横穴、腹哀穴を経て腹中に入り、中脘穴、下脘穴の際にいたって脾に属し胃を絡う。さらに横隔膜を貫いて胸部に上り、咽頭より舌根に連なり舌下に散じる。また、その支なるものは、中脘穴より別れて横隔膜を貫き心中に注ぎ、手の少陰心経に連なる。

 脾経は、太陰であるけれども厥陰の経路の直近を走行しているため、消化に関わる機能を振興すると言うより、血に関わる症状に効果があることが多いとの指摘がある(和田信一郎氏)。付近に蟸溝がある。伏在神経に有効であり、絡穴である。三陰交は、脛骨神経と伏在神経に作用し、脛骨動脈にインパクトを与えるとされる。絡穴は、疾病の際に反応のよく現れるところである。表裏の経を同時に治療し、腑病及び慢性疾患に効果があるとされている。三陰交は絡穴に近い機能を発揮するのかもしれない。蟸溝は、頸骨上に取穴する。頸骨上の穴を探れと言われているが、内果上5寸ツボは取りにくい。三陰交は、脛骨を外れてもう少し下、足の細いところに位置する。恐らく灸をしても作用が浸透し易いだろう。

  蟸溝については、平田氏の報告がある。実兄によって鍼灸の道を勧められたが、ついに東洋医学に魅入られた平田氏が、数年前に兄がかかった「前立腺がん」を鍼灸治療によって改善せしめたと言う。「…「腎」と「肝」の反応が現れており、とりわけ肝経上の「蠡溝穴(れいこうけつ)」が著明であった。本穴は、足厥陰肝経の十五絡穴であり、〈『霊枢』経脈篇〉の十五絡病証には、『其の病、気逆するときは則ち睾腫れ卒疝す(睾丸が腫れ疝痛を起こす)。実するときは則ち挺長す(異常勃起を起こす)。虚するときは則ち暴痒す(陰部の激しい痒み)。これを別れる所に取るなり』とある。また歴代の医家は「疝(せん)」としてとらえ、生殖器病全体を指す。つまりこの十五絡の異常は、生殖器疾患病症を示唆している。そこで、この蠡溝穴を主穴にして治療をし、3カ月程でPSA値は1.9ng/mlの正常値まで回復し、主症状も改善した。」とある。治療家は、親しい者の病を前に取り乱しがちであろう。良く最善の一穴を見出し、それによって実兄の命を繋ぎ得たものと、頭の下がる思いがする。

 蟸溝については生殖器疾患病症に用いるのであるから、婦女子についても用いることが出来る道理である。この穴は生理痛に頻用されるとある。肝経は疏泄作用がある。気の「昇(しょう)、降(こう)、出(しゅつ)、入(にゅう)」が伸びやかになる。とりわけ気の上昇に優れているだろう。

 さて、そこで三陰交である。前項で述べたように三陰交は何となく取穴し易く、使い勝手が良いようである。三陰交は脾経にあるから、昇清と統血である。なにより消化機能を高める働きがある。蠡溝穴に似て生殖器疾患に対応するとともに、栄養分を身体の上に分配するとともに、統血すなわち血を漏らさないようにするとすれば、生理を遅らせる働きを有する可能性があろう。そのためには黄体ホルモン及び卵胞ホルモンを堅調に排泄させなければならないだろう。統血作用にはそのような機能が隠されているかもしれない。

 更に、子宮が収縮する機能を考えると、オキシトシンの分泌を増大させる機能を併せ持つということになるかもしれない。しかしながら、かように都合良く脳髄に影響を与えてホルモンの分泌を左右することができるのだろうか。