機内は暗い。
東京行き最終便だった。
地元に戻った時くらいは泊まりたい。
会いたい友達もいる。
しかし、今は、それが許されない。
働いていた。
寝る間を惜しんで働いていた。
「八面六臂」ってのはこのことか、
それくらいビジネスに全力投入していた。
地元での親族会議。
一族、全家を挙げての全面バックアップ。
失った本家の威光を取り戻す!!
その高揚感に包まれた。
身体の中で血液が沸騰し、激流となって迸っていた。
我ながら、
人生、
こんな日がくるとは思いもしなかった。
学校は・・・・高校は、ほとんど行っていない。
学校に行ってた時間より、雀卓を囲んでいた時間のほうがはるかに長い。
72時間連続で雀卓を囲んでいたこともある。
クズ、
最低野郎、
ゴミ・・・・あらゆる形容詞のつく高校生だった。
・・・・まぁ、
サボりたくてサボってたわけじゃない。
そもそもは、
「虐め」から始まったことだ。
虐められ、学校に行きたくない・・・・
身体に変調が出た。
朝は、全く起きられなくなった。
・・・・それでも、行かなきゃならない・・・・
「高校中退」
将来を考えたとき、
それだけは絶対に避けたいと思った。
泣くほどの苦しみを味わいながら学校に行った。
・・・・もちろん、そんな心情はおくびにも出さなかった。
出せば「負け」だ。
加害者側が、さらに、カサにかかって調子に乗るだけだ。
詫びを入れる。
頭を下げる。
死んだって、お前らなんかに屈してたまるか。
行きたくねーから、行かねーんだよ。
グダグダぬかすなら、おめーらもガッコーさぼってみろや。
田舎のことだ。
学校をサボるやつなんぞいやしない。
一見「ヤンキー」面したヤツらも、
一番怖いのは親であって・・・・その親が一番怖いのは「近所の目」だ。
「だりぃ~~~~・・・・」
言いながら、
クソやんきーどもは毎日ガッコーに通ってくる。
まぁ、
ガッコーにやってくれば、「馬鹿」が集団でいて居心地がいいんだろう。
ゴミ箱のような高校。
ドブの匂いが漂う学校。
臭くて、校舎に居る間中、鼻をつまんで息ができなかった。
毎日、ガッコーをサボって海に行き、
同じくサボった面々と雀卓を囲った。
毎日が、
ウンザリする、クズの生活。
・・・人生の早い段階で、
「やる気」
「モチベーション」
そんな前向きな言葉は、全て辞書から失せた。
人生には絶望しかなかった。
今、
・・・・そんな小僧が、
日本の、ビジネスの最前線で、寝る間を惜しんで働いていた。
・・・・人間ってのは、変われば変わるもんだ・・・
高校卒業して、
就職して・・・・
それでも、「人間」としては変わらない。
相変わらずの「クズ」だった。
たまたま、時代が良くて大手企業に就職できた。
・・・・しかし、
時間が経てばボロが出てくる。
「クビ」
一歩手前だった。
そこを、先輩のチームに拾ってもらった。
そして、
先輩の起業に引っ張られ、
能力からは過分な地位を与えてもらった。
・・・・ついには、関連会社の社長にまでしてもらった。
「地位が人間をつくる」
そんな言葉を実感していた。
信頼する人生の先輩で、
命の恩人で、
信頼する上司だった。
だから、先輩の指示なら黙って実行する。
「日本全国に営業所を造れ」
そう言われれば、自ら動いて実行する。
月2拠点のペースで営業所の立ち上げを進めてきた。・・・・営業所開設・・・・営業車の手配・・・人員雇用・・・
窓の外は雨だ。
シートベルトサインが点灯する。
着陸態勢に入った。
先輩の会社との具体的な「契約」は、
部下・・・・弁護士に任せていた。
「親子上場」
そのために、ウチは、日本全国に営業所を出す。
その費用は、先輩の会社、本社が、「出資」という形で出す。
結局、
ウチは、本社の完全子会社になるってシナリオだった。
「法律」部分は、ボクにはわからない。
だから、
そこは、部下に、顧問弁護士に任せていた。・・・・そして、ボクは、自分にできる「営業所」立ち上げに走り回っていたわけだ。
親会社からの出資。
先輩、成海を交えてのミーティング。
当事者たちで、趣旨は十分理解している。
だから、
あとは、「法律的に」問題のないものに仕上げるだけだった・・・・
大きな衝撃。
羽田空港に着陸した。
機体を激しい雨が叩く。
ピカッ!
空港が白く輝いた。
・・・・どうやら、地元で降っていた雨雲が、東京に流れてきたらしい・・・・さらには、雷も参加している。
話をスタートさせて、すでに3ヵ月が経とうとしていた。
・・・・・未だ、契約書が締結されていなかった。
ウチの顧問弁護士にとっては、
こいつが、本格的な「初仕事」だった。