日本国内でブリーフの前開きと言えば、「ああ、あの前側のアレ、それが何か・・・?」となって、特別の興味や関心は引かないと思います。前開き部の上下長さ、開口幅、前二重の合わせ幅などに多少の差はあっても、スタンダード、セミビキニ、前開きビキニなどの種類やメーカーが違っていても基本は同じで一種類だからでしょう。

しかし広く海外までを見ると状況がかなり違ってくるようです。そこで今回は、本アイテムの本家となる欧米にまで広げて、ブリーフの前開きにはどのような種類があって、それぞれの仕組みはどうなっているのかについて考えてみましょう。

以下はkia***さんから頂いた解説です。幼・少年期は欧州居住、その後も中長期の滞在、米国他へも幾度も渡航歴があるので、広い観点からの具体的で明快な説明になっていると思います。

下記の記事と合わせて読むと、ブリーフについて今までは気付かなかったことが見えて来そうです。

ブリーフの形と種類(タイプ)-1:ヨーロッパ型 vs.米日型の視点から


タイプ(D)、(E)の後半に
kia***さんの補筆を付け加えました(8/30)。

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解説本文

図1と図2に私の知る前開きの代表例を示します。赤の実線は表側の開き口のライン、赤点線は内側の開口ラインです。以下では、開き口のラインの向きを「表側」→「内側」の順に「縦―横」というように記します。なお、黒線の元図は以前フランスにあったWEBサイトからの引用です。
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図1.前開きの形状と開き方の比較1
(A)Y-フロント(米・英型)、(B)国内の一般タイプ(米・日型)、(C)カンガルー型(仏型)

タイプ(A)
Y-frontと呼ばれる前開きで、開き口は「斜め-横」です。1934年に発明されて以来の古典的タイプです。表の開口方向の関係から、内側を潜らせた後はず~っと自分の一物が見えます(笑)。本家の米国よりも英国で普及したそうです。私の子供時代の記憶では、英国人の子は殆どこのタイプでした。

タイプ(B)
日本でブリーフと言えば、この和服の前合わせに似た「縦―縦」の前開きがごく普通にイメージされると思います。Y-front型ブリーフの発表後、間もなく米国で創出され、以後ずっと(約85年!)同国での主流です。

戦後日本にはこの「米国式ブリーフ」が移入され、そのままずっと国内の主流です(約70年以上!)国内メーカーはブリーフとしてこのタイプを一貫して製造販売し続け、消費者側もこの形を「ブリーフ=図(B)の下着パンツ」として受け入れて来たようです。その結果、このタイプが(前開き)ブリーフとしてほぼ唯一無二の基本形となったのでしょう。

図1,2の中で内側が縦なのはこのタイプだけです。大陸側欧州人で穿く人は殆どいないと思います(注1)。私も、周囲でこのタイプを穿いている子供や大人は見かけませんでした。フランスサイトではExtirper son matériel de ce genre de slips est parfois aussi difficile que de faire passer un chameau par le chas d'une aiguille !(このタイプのブリーフからあなたの一物を出すのは、往々にして、針穴にラクダを通すのと同じ位に難しい!)などと揶揄されていました。

(注1)店頭で見かけることはまずなかったです(コロナ前)。但し最近になって欧州各国のAmazon等が米国ほかの欧州外ブランドのものを扱っています。このタイプは欧州ではかえって「一種の新味」があること、一般に低価格なこと、イラスト付きのカラフルな子供用では相当低コストのセット物(おそらく中国や東南アジア製造品)が出ていることから、最近では一定の購入・着用者があるようです。

タイプ(C)
カンガルーポケットのような形の「横-横」式です。欧州の古典的な前開きですが、現代版としてはHOMのHO1があります。


タイプ(D)、タイプ(E)
英国以外の欧州で代表的な「縦-横」の前開きです。(D)には表面の生地にフロントシームがあり、着用時のフィット性を高めます。Eminenceのモデル 108で始まり、とくに仏・仏語圏で普及しています。(E)にフロントシームはなく、独・独語圏やスペインで一般的なようです。フロントシームがもっと短いものや、他の付加的シームの存在やその形と位置など、(D)と(E)にはかなりのバリエーションがありました。
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図2.前開きの形状と開き方の比較2

(D)欧州型:仏など、(E)欧州型:独・西など



「ありました」と過去形で記したのは欧州式がこの二種に集約されたこと、さらに近年の欧州では前開き型が少数派となり、前閉じ型が主流となっているからです。とくに欧州ブランドのジュニア用は全面的に前閉じ型になっています。

なおその前閉じ型ですが、丁度、(D)や(E)の開口部の縁を縫い閉じにしてよりlow-rise 化した感じです(注2)。実際に、メーカーはそのようなイメージで前閉じ型をデザインしたのかも知れません。表から見た感じは(D)や(E)にそっくりです。

(注2)前閉じ型で小用の際は、ズボンのチャックを開き、非利き腕の親指でブリーフのウエストバンドの前側を引き下ろして取り出します。low-rise 化するとそれがやり易くなると同時に、ブリーフの全体フォルムもよりスッキリした感じになります。と言うと、「前閉じビキニ化」と思われそうですが、そうではありません。前回記事(形と種類)の図2の比較を参照下さい。

同図の日本型ビキニ(D)と欧州型クラシックブリーフ(S)とでは、足口カットと穿込みが違っています
(lin-baelder注:この問題については別項で説明頂く予定です)

参考:タイプ(B)と(E)の実物比較
図3に、実家に”ほぼ”新品ないし新品で保存してあったジュニア用のタイプ(E)とお馴染みのタイプ(B)とを同一縮尺で比較しました。(E)には裏側の開き口の画像も添えたので、このタイプの感じが分かって頂けると思います。

A3A更新
   図3.実物比較
 
 
またこの比較から、設定サイズと実際のサイズが日欧で逆転していることが分かります。つまり、欧州型(E)の176サイズの方が日(米)型の(B)の160サイズの(B)よりもかなり小さめです(と言うことは欧州型に馴染んだ私からすると(B)はかなり巨大(笑)です)。しかし、同じ綿製でも生地質や厚さが違うので、(E)の方が締め付けが強いというようなことは全くありません。

なお、私の経験や知るところでは、以上のようなサイズの逆転はたまたまではなく、日米型の(B)と欧州型の(E)や前閉じ型との比較で一般的です。

個人的経験

私の場合、子供時代に(A)(B)(E)の着用経験があります。前2者を一日中、毎日着用することはまずなくて、実質の合計期間も2週間~4ヶ月位の一時的な着用でした。日常のメインは前閉じ型で時々(E)を穿くことがありました。この三者の中で、穿き心地は(E)が各段に良く、前閉じ型に似ていました。