「それでも」の行方







「それでも」という言葉が好きだ。

​前向きだからじゃない。

「大丈夫」と、

現実を軽やかに飛び越える言葉でもない。


​一度ちゃんと立ち止まって、

迷って、

諦めたくなって、

それでも――と、

もう一度足を前に出す。


わたしは、

そんな「それでも」が好きだ。


​中学生の頃に書いた、メロスの感想文。


心惹かれたのは、

美しい結末ではなく、

暗闇の中で葛藤しながら、

それでも走ることをやめなかった

彼の足音だった。


あの頃から、

わたしはあまり変わっていない。


​スポットライトを浴びる俳優の、
 
かつての端役の姿。

「ここまで歩いてきたんだね」と、

その足跡に拍手を送りたくなる。

わたし自身もきっと、同じだ。


​◇


けれど

​時にこの言葉は、

反抗的に響くらしい。


​誰かに諌められ、

否定されたとき、

「それでも」と呟けば、

素直じゃない、

強情だ、

と影が差す。


​本当に、そうなのだろうか。

ただ頑固なだけなのだろうか。


わたしの中のそれは、

周りの声にただ耳を塞ぐことではない。


相手の言葉を受け止めて、

傷つき、

悩み、

諦めそうになる自分と向き合った上で、

最後に出る「祈り」のような一歩。


「自分の足で立つことを諦めない」

静かな覚悟。


​◇


​学生時代、

図書館の片隅で見つけた本*¹のタイトル。

その七文字だけが胸にすとんと落ちて、

人生の壁にぶつかるたび、

お守りのように、

心の中でそっと唱えていた。

​物語を知らなくても、

その言葉の持つ響きだけが、

わたしを支えてくれた。


​◇


​もうひとつ、

忘れられない言葉がある。

「それでも! 守りたい世界があるんだ!」*²

​画面の向こう、

涙を流しながら叫んだ少年の声。


突きつけられた絶望や、人間の業。

それをすべて引き受けた上で、

彼は叫んだ。


​綺麗ごとだけでは進めない世界で、

傷だらけになりながら、

それでも、と手を伸ばす。


​◇


​先に何が待っているのかはわからない。

​けれど、立ち止まり、

迷い、

時には諦めかけたその先で、

「それでも」と踏み出した一歩が、
 
新しい景色を連れてくる。


​だから、今日も。

それでも、歩いていく。





*¹『それでも私は行く』(織田作之助著)

*²「それでも!守りたい世界があるんだ!」
─機動戦士ガンダムSEED DESTINY』
(キラ・ヤマトの台詞)