野球の季節の本格到来に浮かれまくり、イースタン春季教育リーグとオープン戦観戦で、6日間のうちに4つの球場を訪れたここ最近。
公式戦に比べてチケットが取りやすく、なおかつ安いオープン戦期間を活用し、当スタジアムの野球観戦的ライフワークである「未踏の新席種トライ」に、ふたつの球場で続けざまに励んできたので、簡単に紹介させていただく。
今季最初の席種体験調査の場となったのは、3月18日(金)にライオンズVSスワローズのオープン戦で訪れた、メットライフドーム改めベルーナドーム。
2017年オフから2021年の開幕前まで、およそ3年に及んだ大改修工事の中で魅力的な新席種が数多く生まれたこの球場。今回試してみたのはそのうちのひとつで、2020シーズンにリニューアルデビューを果たしたこちら。
2020シーズンのデビュー当時の名は『ステンレスカウンター』。2021シーズンから魔法瓶の水筒などでおなじみの『THERMOS(サーモス)』がネーミングライツを取得して改名された『THERMOS ステンレスカウンター』である。
新席種トライといったが、ご覧の通り座るべき席はない。そう、この『THERMOS ステンレスカウンター』は、一般的に「立見席」と呼ばれるカテゴリの席種である。
掘り下げ式に作られたスタンドゆえ、コンコースがスタンドの上縁に沿って作られているベルーナドーム。かつてはその長い長いスタンド上段通路に、おそらく12球団本拠地球場ナンバー1の長大さで展開されていた立見エリア。
もちろんエリア内自由席で、2010年代前くらいまでは「ごくまれにしか使わない、椅子の数からあぶれた客を適当に立たせとく場所」くらいの扱いだったものが、2010年代中盤以降のイベント試合やユニ配布などの観客動員強化施策が当たって満員札止め試合が増えたことにより、おそらく稼働率が上がったのだろう。
席として使うのならばなるべく快適な観戦環境を提供しようとカウンターを設置し、新型コロナ禍前から進んでいた球界の「自由席廃止」の流れを受けて全席指定に。そして観客の目に触れる機会が増えたのならば広告も募ろうと、ネーミングライツを得て『THERMOS ステンレスカウンター』に進化、という経緯で誕生したのではないかと推測。あくまで勝手な推測なので事実は知らぬ。
前述の通り、外野から内野のバックネット裏近くまでと、おそらく12球団本拠地球場で最も長大なスペースを誇っていたこの球場の立見エリア。そこに置き換わった『THERMOS ステンレスカウンター』も、その長大なスペースを丸々継承。
外周の壁に延々と並ぶステンレスのカウンター。コンコースが勾配となっているため、段々状に並ぶその光景は、日本の原風景「棚田」のようである。
今回取ったチケットは一塁側。コンコースのダラダラ坂を上りきったところ、もうすぐそこは『L's Kitchen』という辺りにある、席番号1からの『THERMOS ステンレスカウンター』の内野側の一番端。
無駄に高く遠い位置を選んでしまったため、立ち見をする以前にたどり着くまでに脚部に地味に疲労が蓄積……。
エリア内は、ステンレスカウンター1枚が2名分(一部例外あり)となっており、椅子なし時代の外野席のように、足元にはそれぞれの縄張りが白線でバミられている。
『THERMOS ステンレスカウンター』の最大の特徴であるカウンター部分。
その名の通り、ステンレスの1枚板を成形して作ったクールでシンプルなカウンターには、右手にカップホルダー用の穴が開いている。
目測だが、ひとり当たりの専有面積は幅70センチ×奥行30センチほどだろうか。様々な種類のスタジアムグルメを並べて楽しむことができる、なかなか快適な広さである。
写真では伝わらない余談として、これは席の特徴というよりどちらかと言えば観戦環境の問題の話になるが、気温4度という真冬並みの極寒だったこの日のベルーナドーム。
そんな中で外気にさらされっぱなしだった金属製カウンターは、しばらく生肉を置いといたらチルド冷凍ができそうなほどの、ちょっと素手では触ってられない恐ろしい冷え冷えっぷりだった……。
経験者のアドバイスとして、春秋の寒い日などは、買ってきたばかりの温かいスタジアムグルメなどはここに置かず、手に持ったまま食べることをお勧めしておく。
旧立見時代は、荷物は持参した敷物や新聞紙などに置く必要があったが……
『THERMOS ステンレスカウンター』には、簡易なものだが荷物用フックがある。
これも多分ステンレス製で丈夫なのだろう。
席からの眺めは、旧立見席時代と何ら変わらず。
真下、つまりスタンド最上段の席とは高低差がしっかりあるので、前の人がフラッグを振ろうが立ち上がろうが、まったく視界に入らない。
カウンターがついたことにより、うっかり下にドリンクを落としてしまうなどという事故の発生確率がかなり下がったことは、立見、真下の席双方の利用者にとって朗報であろう。
この『THERMOS ステンレスカウンター』は、一塁側は外野から内野まですべて『THERMOS ステンレスカウンター(内野立見)』という名称で販売されているが、ホーム三塁側は「外野」「内野」「ネット裏」の3区分に分かれている。
チケット価格は公式戦スタンダード設定日で内外野とも2100円、ネット裏は2300円(いずれもFC前売価格)。
調べてみたらカウンター設置前、2019年の内野立見のチケット価格(スタンダード設定日)は1600円。3割少々の値上げとなっているが、設備が良くなって指定席化されたことを考えれば妥当であろう。
ちなみに、3万少々のキャパを誇るベルーナドームのこの日の入場者数は、平日昼間のオープン戦、さらには雨と寒さもあってか、わずか4257名。
当然ながらチケット争奪戦などあるはずもなく、ほぼすべての席種が好きに選び放題で、しかも同じ値段で椅子がある席を取れるにもかかわらず、わざわざ立見席のチケットを取っているモノ好きは他には見当たらず……。
いたのかもしれないが、冷たい風が吹きつけるコンコースが嫌になり、目の前にいくらでも空いていた座席にしれっと移動したのかもしれない。その気持ちは痛いほどわかる。
しかしである。オンラインでチケットを取った際には、飛び飛びで埋まっている場所が結構あったのだ。しかも横並びで何席かまとまって。
立見を愛好する観戦グループがたむろしているのかとでも思っていたが、実際に現地でそのあたりの場所を見て、埋まっていた理由を瞬時に理解。
球場によくある「見切れ席」なんて生易しいものじゃない、コンクリ以外まるっきり何も見えない「ただの壁席」。
この球場の屋根がなかった時代の遺物としてコンコースに点在し、フィールドへの視界を妨げているこのコンクリの柱。ご丁寧にここにもステンレスのカウンターが設置されていて、席番号も振られているのだが、実際には販売はしていないらしい。
そりゃ「ここがあなたの席です」なんて案内されたら、コンクリ壁愛好家以外はひと悶着どころではないだろう。
「そこらに適当に立ってろ」というかつての雑なものから、「立見なりの快適な観戦体験を」という考えに大きく方針転換したことがうかがえる、令和の時代の立見席『THERMOS ステンレスカウンター』。
時代が変わっても3時間の立ちっぱなし観戦が疲れることに変わりはないだろうが、指定席なので場所取りの必要がなく、パーソナルスペースも十分に取られているので、旧来の「立見=人垣」の頃に比べれば、観戦環境は段違いに良くなったであろう。
「そこしか取れなかったから……」という消去法ではなく、積極的にこの席を取るとすれば、その最大の動機になるのは「コンコース上なので、階段の上り下りなしで売店に行き放題」だろうか。
滞在中ひたすら食って飲んでという「スタグル食い倒れ観戦」を望む方にはお勧めである(※ただし陽気のいい時に限る)。
本記事タイトルに①とあるように、オープン戦期間中にもう1か所別の球場でも新しい立見席を試してきたので、その話はまた次回。
いつか連日収容しきれないくらいにお客様であふれかえるような状況が訪れたら、真似してカウンター付きのスタンディング席を作りたいと目論む当スタジアムへの皆様のご来場を、引き続き心よりお待ちしております。