小学生の僕らが
「釣りの兄貴」と呼ぶ高校生がいた。
夕方池に現れる彼は、
太い竿に太い糸、
ウキはつけずに大きな釣り針、
パンのミミを餌にして、
毎日のように60cmオーバーの
鯉を釣っていた。
「すごいな」
今思えば変な高校生に違いないが
子供の僕らは素直にそう思ったものだ。
僕は兄貴の真似はしなかった。
ゆさゆさと揺れる水草の脇に、
大きな練り餌の玉をつけた
仕掛けを垂らす。
日没前の薄暗い池。
息を潜めながらじっと凝視していると、
水から顔を出してるウキが
一回、二回と上下したと思ったら
一気に水中に吸い込まれていくんだ!
息をのむあの瞬間。
あの興奮に匹敵するもの、
僕の人生で何度出会えているだろう⁈