「新人君だ。よろしくしてあげて」
「今日から新人で入りました、牧田と申します。よろしくおねがいします!」
アルバイトとして入ってきたその青年は、見慣れたレンタルショップの真新しい青い制服きちんと身に纏い、茶色っぽい赤髪とピアスに似合わないくらいに背筋を伸ばして挨拶をしてきた。
高校から無駄に長くその店で働いていた私は、同い年ではあるが、彼の教育者としてあてられた。
無駄に明るい見た目で人生を謳歌しているような彼と、口数少なく消極的に生きてきた根暗な私はぱっと見ただけでも両極端だが、意外と性格の相性は悪くなく、仕事のやり方も似ていて覚えの早い彼に教えるのに苦労はなかった。
「あ、そのゲーム俺もやってます」
休憩時間に盗み見されたスマホを見られてから時の流れは早かった。
1週間目はそのゲームを語り合い、2週間目で食事(ラーメン)を食べに行き、3週間目では二人で遊びに行くようになり、4週間目では名前を呼び捨てで呼び合う……最初の一カ月で流れるように意気投合してからというもの、今ではお互いの家に入り浸るようにもなった。
よく知っていくと、彼は行動範囲も許容範囲もすごく広くて、4人兄弟の長男だったのもあるのか、面倒見がよく、料理も上手い。相手の許す心の深いとこまで潜ってそれ以上は無理に立ち入らないところが、私にとってかなり居心地がよかった。
「綾瀬、聞いてる?」
休憩室のテーブルに頬をつけて遠くの壁をみつめていた私の身体を聞きなれた声が揺さぶって起こす。視界にふと入り込んだ「牧田」と書かれた胸元のネームプレートが机の影に隠れると、赤い髪に隠れたまっすぐな目がテーブルと同じ高さで見つめてきた。
「……ごめん、聞いてない」
「もぉっ、聞いてよ!こないだ始まったイベントアイテム取るの手伝ってほしいから、今日家来ない?っていってるのに」
意気投合した切っ掛けのスマホゲームのイベントをふと思い出す。
基本は無料でできるゲームだがそのイベントだけは課金をするか、仲間に手伝ってもらわないとなかなかクリア出来ない為、無課金の彼が課金者の私に助け舟を出すのも分からないでもない。
私はゆっくり身体を起こすと、長テーブルに肘をついて彼を見下ろした。
「報酬は?」
「次のバイトの昼奢ります」
「私、今日遅番だけど」
「夕飯作ってまってます」
「仕方がないな」
ガッツポーズをするようにお互いの手をぎゅっと握る。
どうせ報酬がなくてもいつかは手伝わされる事は見えていたが、ただ単にお決まりの掛け合いが好きで少し強請る癖がついてしまった。お陰で最近職場では凸凹コンビとして認知されてしまっている。
「今日は超豪勢に夕飯作るね!」と定時ぴったりの時間に勢い込んで上がっていた彼を見送ると、腕時計で時間を確認する。
定時まで残り3時間。
明日は新作映画のフェアも控えている分意外と仕事が溜まっている。夜の事も考えると優先順位を考えて行動しなければ、残業になってしまうだろう。
「準備手伝うよ」
「ああ、ありがとう北野」
そういってカットボードを取り出すと、私が描いたポップをどんどんと綺麗にカッティングし始めた。
同期の北野は2つほど歳は上だが、大人しそうな容姿と小柄な背丈であまり歳の差を感じさせなくて話しやすい。
「そういえば牧田君といつ付き合うの?」
ぽつんと呟かれた言葉に動揺して油性のマジックペンが紙の上をいらないところまで滑る。
「ち、ちがうよ。マキとはそんなんじゃない」
「え、違うの?だって本当いつも一緒じゃない。今日だって急いでるの、牧田君と会うためでしょ。ゆるゆるしてると誰かにとられちゃうよ?」
私は黙ったまま、失敗したポップをごみ箱に投げ捨てると小さく溜息をつく。
「本当にそんなんじゃない。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない。ただのゲーム仲間だよ。それだけ」
目線を合わせずに言い切った私に北野は頭を傾げたが、それ以上は突っ込んでこなかった。
私は胸の内側に感じた違和感を振り払って、目の前の仕事を終わらせる様に強くペンを握りしめた。
つづく
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読み切りで描くつもりが続きものになってしまいました。
しかも文字数の都合で中途半端なところでのカットに……すみません。
もう少しだけお付き合いしていだだければと思います。