SprinteR -緋色の欠片- -6ページ目

SprinteR -緋色の欠片-

想う事 見る事 感じる事 願う事 言葉 小さな欠片だけれど ひとつひとつが 大切なもの


あれは高校に入学してから数カ月たった時の事だった。

ざんばらに伸びた前髪に牛乳瓶の底の様に度の強い眼鏡。誰が見ても根暗の見た目な僕は中身も小心者だった為、周りに打ち解けれなくて、図書室で静かに本を読む日々を送っていた。

本を読むのは好きだ。どんな人間であれ同等の情報を与え、読めば読むほどに深まる興味と知識に心を躍らせる。あまりにも夢中に読んでしまって気がついたら夜になっている事もあった。

この日も周りが見えなくなるぐらい夢中で読書に明け暮れてた。

まさか、積み上げていた本にうっかり肘を当ててしまうとは思ってなかった。静まった図書室に厚い本がドサドサと散らばって音が響く。誰も振り向きもしない代わりに視線だけが痛く背中を突いてきて、現実に戻されると酷く恥ずかしくなりながら、散らばった本を拾い上げた。


「はい、これ」

一番遠くに転がっていた本を拾おうと立ち上がったところを、線の細い手がその本を差し出してきた。思わず、驚きながらも本を受け取って、相手を見る。

仄かな花の香り。うっすら染めた茶色の髪が肩で綺麗に切りそろえられた彼女は女性らしいというよりは、何処か中性的な感じがした。


「あ、ありがとう……」

「その本よく見つけたね。私もついこないだ読んだんだ」

「えっと……まだその……読んでなくて」

「そっか。結構面白かったよ、オススメだね」


そういって手を振って静かに去っていった彼女の背は凛と伸びてて少しかっこよくみえた。

おもむろに渡された本の一番後ろに張られた貸出カードを確認する。



621日 綾瀬衣里』


つい3日前の日付で書かれた彼女の名前をなんとなく、忘れる事ができなかった。

次会ったときに彼女に話す為にと、すこしだけ見た目を気にして髪をきったり、眼鏡を変えてみたら意外と周りの壁が薄くなってその後の高校生活が充実していった……大学入学した今でもどもり癖は治らないけれども。結局、いろいろ変えたにも関わらず、あと一歩というところで彼女と再度話せないまま卒業してしまった。



いまでもずっと忘れられない。

彼女のその手はそれだけ、青春時代の僕にとって変化をくれた大切なものだったのだろう。



『家の近くのレンタル屋でなんかDVD借りてきて~。こないだ話してた新作の奴』

デニムのポケットに仕舞い込んだスマートフォンがピコンとなると片手で画面をなぞって、LINEのアイコンの上に赤い丸がつくのを確認し、開く。


連絡してきたのは牧田だった。大学入学してから上京してきたばかりの彼とすぐ仲良くなって、最近では彼の家に入り浸っている。正直、実家住まいの僕は大学まで2時間かかるので、次の日が早い時は大学に近い牧田の家に泊まらせてもらう事が多かった。

『わかった』

返事をさっくり返して、見えてきたレンタルショップに立ち寄ると洋画の新作コーナーで以前牧田と話してた作品をを数本拾い、カウンターに差し出した瞬間、驚いた。

彼女だ。どうやら、気付いたのは僕だけの様子で、少し離れたところにある研磨機を手慣れた手つきで扱いながら、真剣に積まれているDVDを磨いていた。

最初の印象から少し大人になっていたけれど、全体的に変わりない。他人の空似を気にしてネームプレートを確認するが、そこには『綾瀬』と書いてあって間違いなかった。

話しかけたかった。

でも喉から半分でかかった言葉は声になりきらなくて。

もし覚えていなかったら?もし、知りませんといわれてしまったら?

そんな事を考えるとどうしても俯くことしかできなかった。




それからというもの、未練がましくも何度もレンタルショップに顔を出しては、彼女に会いに行った。

牧田の家に行く時は近いからいいが、毎度彼の家にお邪魔するのも理由が理由なだけに気が引けた。だが、実家から来ると大学と同じくらい遠いここに2時間はかかる為、いつも閉店ぎりぎりに来ることしかできなかった。

それでも、会いたかった。話をもう一度できたら、と。


(彼氏さん、いるのかな……)

思わずよぎった思考を振り払うように頭を振る。恋人以前の問題だ。まだ、友達でもなければ会話もできていない。


(今日も話せなかったしな……)

テーブルの上に置かれたレンタルDVDの詰められた黒い小さなトートバックを眺めて溜息をつく。


「最近DVDよくかりてくるな」

キッチンに立って夕飯の準備をしながら牧田がふとそんな事を言い投げてきた。


「えっ……?!ほ、ほら、だって牧田映画好きっていってたし……さ?」

頭の覗かれた様なタイミングで言われて、動揺が隠しきれず言葉にドモリがでてしまった。

そんな僕をちらっと眺めてニヤニヤ牧田が笑う。


「挙動不審すぎ。なんか良い子でもいたのかよ。あ、前言ってた初恋の子とか?」

包丁を持った手で指をさされると、思わず黙りこむ。

美しすぎる包丁さばきの彼がその手をとめてあんぐりと口を開けた


「まじ……か……。ちなみに、どっちよ、良い子?初恋の子?」

少し恥ずかしそうに照れて俯くと、声を聞く前に答えを牧田がなげた。


「両方か……!」


最近彼には僕の心が読めるんじゃないかと思ってきていた。ここまで何もいわなくても言動を理解してくれる彼は言葉数の足りない僕にとって最高の友人だと思う。

目の前に置いていたキャベツを一刀両して、すごい勢いで千切りをはじめながら勝手に納得した牧田はそれは大きい溜息をつく。


「だ、だめかな」

「……だめか駄目かじゃないかは自分で決める事だろう。俺が駄目っていったらつきあわないのかよ」

「いや、てか、そもそも話せてないし……」

「はなしてないの?!おま、何十回この数カ月であそこにいってるのに?!」

「だって」

「だってじゃないの。かわいこぶってもしりません。綾瀬さん、だっけ?……まあ、頑張ってみりゃあいいんじゃないの。ほれ、夕飯にするから机占領して凹まない」


そう言いつつ毎回外食並みに美味しい夕飯をつくってくれる友人に感謝した。




②につづく

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よくよくみたらカットポイントが絶妙で主人公の名前がでてないという。

長谷川視点です。今回こそは短くとおもったんですがつづいてしまいました。