数日後。
彼はそのレンタルショップでアルバイトを始めた。
親元から離れて一人暮らしをしている苦学生の彼は、アルバイトをもう一つ掛け持ちしたいと話していたので、そこまで驚きはしなかった。逆に友人が働いた事によって僕としては「話す為の切っ掛け」が出来た事が嬉しかった。彼を切っ掛けに使ってしまう事に罪悪感があるといえばあるけれども。
「あ、あの」
「はい?」
いつものようにDVDをカウンターに出して、普段かけない声を彼女に問いた。
「牧田君って、今日出勤してますか?」
「マキ?…あ、っと、牧田なら休憩に出てますけど。そろそろ終わりなので呼びますよ」
「え、いや……」
彼女はすぐカウンター裏の内線電話で事務所にいる牧田をよぶ。
正直、牧田にあってどうのという会話はない。それよりも、彼女が牧田を仇名で呼んだ事にすこし眉をひそめた。
(マキ、ねぇ……)
まだアルバイトを初めて数週間しかたっていないというのに、もうあだ名で呼び合うほど仲がいいのか。
「長谷川!」
一段と明るい声が耳に響く。
手を振ると、駆け寄ってきた牧田が肩に軽く抱きついてきた。
「最近ちょっと見なかったからどうしてるのかと思ったよ」
「ちょっと学科が忙しくて。牧田は元気そうだな」
「まさか、さっきまでぐでってたよ。なんだよ、来るなら飯出ないでまってたのに」
「ちょっと驚くかなっておもって」
ふとカウンターを見ると、彼を呼んだ彼女の視線が寄せられていた。
彼女はじっと牧田の背を少し見つめてすぐに視線をそらし、何処か諦めた様子で溜息をつく。最初はこちらの様子を窺っているのかと思ったがすぐにそれが違う事に気がついた。
(ああ、そういう、こと……)
ずきずきと痛む胸に握りこぶしを作って当てる。
彼女はおそらく、牧田の事を気になっているのだろう。
――それでも、牧田を理由に何度か彼女に会いに訪れた。
彼女と話すのは、本当に一言二言の牧田がいるかいないかだけ。それでも話せるだけでも俺にとっては進歩でどこか嬉しく感じながらも、少し切なくなる時もあった。
「なにか、伝えておきましょうか?」
ふと、いつもと違う問いが飛んできた時は少し動揺した。
何処か冷たい声で、彼女は今日彼と会うのだという……この閉店ぎりぎりの深夜を過ぎた時間に。
いまから 会いに行くって どんな用?
職場の飲み?
なにか約束をしてるだけ?
ふたりだけで?こんな時間に?
気を許せる相手だから?
もう、その手を繋げるだけの真柄だから?
(ああ、駄目だ)
とめどない思考回路。
牧田は大切な友達だ。
それでも、それ以上に目の前の彼女へ募る想いは時を重ねる事に重くなってて。
「いや……大丈夫」
声になっているかもわからなくて。
まっすぐな視線をそらす事しかできなかった。
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