寝起きの状態から覚醒しようと目を見開く。
これでいかなるファンタジーも迎撃できるだろう。
「九時限目って?」
湯川先生はフフッと笑い、
「ならば説」
「言わせねぇよ!?」
すんごいデジャビュだよ。八時限目の時と同じじゃないか。
先生はゴホン、と咳払いをする。
「九時限目ではより禁忌を犯していこうと思っているのだ。」
禁忌って…。今まででも十分根源へは至っていると思うのだが。
「禁忌を犯すって何をするんですか?」
「ああ。七年目の今回でまだ第三回だからな。一年目の十月と三年目の二月にやっただけだ。まだ明確には決めておらん。」
そんないい加減なのに今やろうと思うって…。
本当に先生は変わった人だなあ。
「まあ、本日はあれこれ考えなくても大丈夫そうだ。広峰、倒れる前に飲んだ液体の事覚えているか?」
忘れるわけがない。未だに味が残っている。
しかし何故先生が知っているんだろう。先輩達から聞いたのだろうか。
「覚えてますけど。くそ不味かったですよ、アレ。」
「アレに入ってた裏山産の植物は俺が育てたんだ。」
へえ。そうなんですか。割とどうでもいいです。
「勾配を繰り返して最強の植物を作り上げたのだがな。まさか採取されるとは思わなかった。」
「どれくらい最強なんですか?エリクサーくらい?」
先生はよくぞ聞いてくれたと思っているのが分かるほどの決め顔をした。
「聞いて驚くなよ。なんと生物の細胞を超絶に活性化させるのだ!!」
すごく適当だな。
別に飲んだ自分の中から何かがこみ上げてくるなんて事ないんだけど。
「実際お前にも変化が起こっているだろう?実験は成功したのだよ!」
心当たりがない。軽くジャブをしてみるが変わった様子はない。
「どんな?」
「分からんのか…。ならば説明しよう!」
結局言われてしまったな。このセリフ。
「お前は自分が饒舌になっていると思わないかね?」
言われてみれば…。セリフの頭の『…』も消えている。
でもそれって細胞関係あるのか?
「まあ、効き目は明日になったら消えてしまうだろう。しかし突発的な、例えば『合コン』とかでは大活躍だぞ。」
「行きませんよ!?」
なんやかんやでムッツリだと思われてるんだな。
「ではこの薬による変化を色々と試させてもらおう。」
「でもあんまり変わっている感じしないんですよね…。」
今度は三連回し蹴りをしてみるが何も変わっている気はしない。
…三連…回し蹴り?
「起きてからじゃなきゃ巡りにくいみたいだな。」
先生はポケットから取り出した手帳に書き込んだ。
本当にここの人ってポケット好きだよね。
「まあ手始めに視力検査をしてもらおう。その後は…」
「後は?」
先生の話を最後まで聞かないレベルにまで達してしまった。
なんやかんやでコミュ障卒業しても人格破綻者になってしまいそうだ。
「スポーツテストをやってもらう。時間がないから持久走はカットな。」
「なっ…。」
「拒否権はない。」
視力検査は廊下で行われていた。
通常の距離を二倍にする事によって学校の備品で2.0以上を擬似的に計るのだ。
視力検査が終わった。
0.8だった視力が3.6まで上がっていた。
ワールドレコードには達しなかったが異常な変化だ。
すんごい負荷がかかってる気もするけど。
そんなことよりも今から始まるスポーツテストの方で頭の中が一杯だった。
グラウンドに着く。結構遅いのでどの部活にも使われていなかった。
ああ、始まるのかぁ…。
ボール投げや立ち幅跳びはそこまで疲れない。
だが50m走、お前は駄目だ。
場所は変わって体育館。
握力や長座もさして疲れない。
だが反復横跳び、お前は駄目だ。
上体起こしって何だよ。腹筋がFuckinだよ!
スポーツテストが終わり、理科室に戻る。
たいした休憩がなくても体がすぐに軽くなるから普段の授業と同じ感じでできたけど…。
やっぱり動いてるときはすんごい疲れるんだよ…。
特に移動まで走らされるって。そりゃあ、できれば早く帰りたいけど。
しかし30分ほどで(持久走は無いけど)完走できたというのは意外だ。授業の燃費の悪さがよく分かる。
いや、魔界飲料のお陰だけど。ここまで時間を有効活用できるなら確かに禁忌だな。
「ほう。素晴らしい結果だ…。」
先生が俺の体育の授業での成績と見比べて声を上げる。
てかどこから持ってきた、それ。
「よし、じゃあもう帰って良いぞ。」
「はぁ、失礼します。」
学校を出るのは七時二十分頃になった。
先生は一体何者なんだろう。
…明日は休もうかな。
◆能力系フラグ立てて二日目を終了させたぜ。この路線変更は痛手かもしれん。