んじゃ、行きますな
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Ep.13《つまりはそういうことで、男は女に勝てない》
「…ちょっと、待ってくれ」
頭を押さえて、隼人は麻耶に言った。
「俺の何処に王の素質が?」
「全てに、です!」
即答された。
「A組に負けないどころか圧し勝つ実力!戦局を相手の十手も千手も先に読むその智略!これ以上ない理想の王です!」
「…何か壮絶な勘違いをされているようなんだが」
半眼でレオンと静の方を見ると、二人とも驚いたように目を見開いた。
「え?隼人はそういうチートキャラじゃねぇの?」
「俺はこれが普通なんだが」
「…これが天才と凡人との違いなのね…」
うわぁ…と明らかに引いた目つきで言われては自分でもそうなのかもしれないと思ってしまう。
そんな中、麻耶だけは眼を爛々と輝かせていた。
「我が王…」
「それ、止めてくれない?」
「では、何とお呼びすれば?」
「隼人でいいし、敬語はいらない。俺はそういうのが嫌いなんだ」
しかし、と麻耶は俯く。
「私としては、騎士が王にそんな失礼な口をきくのは…」
膝をついたまま俯いて言われると、こちらが悪いことをしている気分になる。
だから彼は嘆息し、
「分かった。好きにしたらいい」
彼女の姿が余りにも寂しそうな犬に似ていたので、ほぼ反射的に彼は彼女の頭を撫でた。
「ふぁ…」
突然のことに彼女も戸惑ったが、直ぐに嬉しそうに笑った。
今までが落ち込んだ犬なら、今は尻尾でも振りそうな勢いだ。
「ジゴロね…」
「ヤバいぜ、隼人」
静とレオンがこちらを半眼で見た。
「…色々面倒になってきたな…」
彼は俯いて溜息をつくことしか出来なかった。
「半蔵!半蔵は何処におる!!」
広大な敷地に建てられた時代錯誤な武家屋敷の床板を不機嫌そうに踏み鳴らしながら、忍衣装に身を包んだ男が叫ぶ。
だが、それへの返答はない。
そのまま男は家の一室の扉を乱暴に開けた。
「半蔵!!」
「ち、父上!?ど、どうしたので御座るか!?」
「どうしたもこうしたもあるか!この馬鹿が!先方さんはもう着いていらっしゃるんだぞ!!」
「それでも急で御座る!なんなんで御座るか!?」
そして半蔵はぐっ、と息を溜めてから言った。
「自分に許嫁とか知らないで御座るよ!!!」
Ep.14《約束と再会》
「許嫁とか!『それなんてエロゲ?』で御座るよ!!」
大きな動作で訴える半蔵。
それに対して、半蔵の父は呆れたように溜息をつき、
「そりゃあ言ってないから知るはずもないだろう?」
「もっとダメで御座る!」
そもそも、と半蔵は前置きして、
「自分、結婚は恋愛結婚が良いで御座る。そんな知らない許嫁とは結婚したくないで御座るよ!!」
一瞬、ほんの一瞬。
父が呆気にとられたような顔をしたように半蔵には思えた。
なぜ?と思う間もなく、その答えは父の口から語られた。
「なんだ、お前、昔のことも覚えていないのか?昔からよく遊んだだろう?」
「は?」
半蔵は記憶を辿る。
正直、そんな女の子は記憶には無かった。
自分、年上萌えで御座るし、ロリコンでは御座らんからな。
覚えていないのも当然で御座る。
なので彼は、
「父上、申し訳ないので御座るが、自分、覚えてないで御座る」
「じゃあ、あの約束もか?」
間髪入れず、父から質問が来た。
また半蔵は記憶の海を辿る。
何で御座ろうか。
女の子とした約束は、静殿に頼まれてレオン殿のエロゲを隠しておいたヤツくらいで御座る。
幼馴染も大変で御座るな。
そういえばまだ隠すまでに至ってないで御座る。
しかも自分のエロゲ置き場と同じ場所に置いてるで御座るから危険度も倍増で御座る。
…まぁ、木を隠すなら森の中と言うで御座るしなぁ。
と、そこまで考えたところで、父が彼を記憶の海からサルベージした。
「仕方ない。取り敢えず会ってみろ。顔を見たら思い出すだろう」
そう言って、父は半蔵の首根っこを掴み、部屋の外に放り投げた。
「お客様は鶴の間だ。精々粗相の無いようにしろ」
半蔵は父の後を追うように廊下を歩いていた。
さっきから無言が続いている。
そして、鶴の間の襖の前に着く。
父が、礼節に従って、厳かに襖を開ける。
「お待たせ致しました」
父はそのまま中に入っていく。
半蔵は廊下で待ったままだ。
中の声が漏れてくる。
「失礼しました」
父だ。
「いえ、こちらとしても良く分かりますよ」
よく知らない男の声。
「それで、半蔵くんは…」
「ああ、今連れて参ります」
「半蔵様、いらっしゃるんですね!」
これは何処かで聞いたことのある女の子の声。
あれはいつだったか。
「半蔵、入って来なさい」
父の声に呼ばれ、半蔵は襖を開ける。
そう。あれはまだ自分がこれからどうなるなんて考えもしなかった頃。
そういえばよく遊んだ少女がいた。
可憐で、触れれば消えてしまいそうな儚さがあったあの少女。
自分はいつもあの娘と一緒だった。
そして、約束した。
『半蔵様、仲の良い男女は、将来ケッコンというものをするらしいですよ?』
『そうで御座るか…自分たちはまだ出来ないので御座るか?』
『出来ないので御座る。でも半蔵様、その時はいいなずけとして将来を約束するらしいですよ?』
『なら、約束で御座る』
…思い出したァァァアア!!!!
そういえばそうで御座った。
開けた襖の先、見えたのは下座に座る父と、上座に座る見知らぬ男。
そして、その隣の、
「お久しぶりです、半蔵様!」
カツカツと、コンクリートを踏む足音が響く。
その足音を生むのはガリレオ。
眼鏡を中指で押し上げ、尚進んでいく。
突き当たりのドアを開けると、そこに広がるのは街の風景だった。
山の中腹にあるその場所からは、街の景色が一望できた。
そんな場所に、場違いな石のオブジェが二つあった。
一つは人一人分の高さはあるもの。そして、それに寄り添う様にもう一回り小さいものがあった。
それは、墓標だった。
「久々ですね、鳴路くん」
墓石の上に菊の花を置く。
そして、彼は屈んで焼香を焚き、合掌した。
「…あの世というのは、どういうところなんでしょうね」
彼が立ち上がろうとした時だった。
彼の後ろに気配を感じた。
不覚、とは言えない。
彼は常に気を張り巡らせていたし、警戒もしていた。
つまり、相手がそれだけの実力を持っているということだ。
彼は警戒し、振り向く。
同時に術式を発動しかけたが、それは相手の顔を見ると、その驚きのあまり霧散した。
「あの、すみませんけど、今って西暦何年ですか?」
彼にとっては見知った顔。
しかしここに居るはずのない顔で、ガリレオは戸惑った。
それに、西暦は黎明期の年号だ。
今は新世紀。
神代の終わりから年号は一度リセットされている。
それは常識だ。
既に新世紀に入ってから数百年が経過し、目の前の男の見た目から推測すれば、どう考えても知らなければならない常識であることは間違いない。
そもそも、殆どの人間は『西暦』自体を知らないはずだ。
だから、彼は問う。
自分の考えが間違っていて欲しいと願いながら。
「失礼ですが、お名前は?」
男はああ、と頷き、言った。
「藤原鳴路です」
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さーて、ついに鳴路くんの登場です
でわ、知ってる人も知らない人も、これからの展開を楽しんで頂ければなと思います