藤子F不二雄のSF短編に「ノスタル爺」という作品があります。

これもまた、名作の一つ。

 

 

主人公は「浦島太吉」という人物。

太吉は、横井庄一、小野田寛郎と同じく、終戦を知らずに、約30年、外地に留まり続けていた人。

日本に帰国をした太吉は、墓参りのために、故郷に戻る。

しかし、太吉の生まれ育った故郷は、ダムの底に、沈んでいた。

 

太吉の生まれた浦島家は、村の名士だった家柄。

太吉には、里子という幼なじみの、恋人が居た。

そして、太吉に、出征の話が来る。

太吉は、急遽、里子と結婚をし、すぐに、戦地に向かうことになる。

 

この浦島家には、土蔵があり、その中に、ある謎の人物が、暮らしていた。

それは、「気ぶりの爺さま」と呼ばれる男性。

太吉と里子が、逢い引きをしている時に、その「気ぶりの爺さま」が、姿を現わした。

その「気ぶりの爺さま」は、じっと、二人を見つめている。

里子は、驚くが、「大丈夫。危害は加えない」と、太吉は、里子を安心させる。

 

里子は、出征をした太吉のことを待ち続けていた。

太吉は、「戦死」扱いになっていたので、里子は、再婚をすることも出来たのだが、再婚の勧めを断り続け、独身のまま、亡くなっていた。

そして、あの「気ぶりの爺さま」もまた、里子の死後、後を追うように亡くなったという話。

 

ダム湖の湖畔を歩きながら、太吉は、湖の下の故郷のことを思う。

が、その時、太吉の目の前に、ある風景が現れた。

この景色は、もしや……。

 

出征の前の日。

太吉を里子は、浦島家の土蔵の前で、別れを惜しんでいた。

そこに、土蔵の中から、声が聞こえた。

「抱け! 抱け!」

と、「気びりの爺さま」が、土蔵の窓から、太吉を見て、泣きながら、叫んでいた。

「うるさい! 黙れ」

と、太吉は、「気ぶりの爺さま」を、一喝する。

そして、太吉は、出征のために、村を出る。

これが、里子との永遠の別れとなる。

 

太吉は、ダム湖があるはずの場所に現れた風景の中を、ある確信を持ちながら、歩き、進んで行った。

すると、目の前に、幼い、子供の頃の里子が居た。

「里ちゃん!」

と、思わず、太吉は、子供の里子を抱きしめた。

当然、里子は、驚いて、泣き始める。

 

太吉は、怪しい人物として、村人たちに捕まり、袋叩きにされていたところを、助けられ、浦島家に連れて行かれる。

太吉は、浦島家の当主(太吉の父)の前に引き出され、そこで、自分がここに居る事情を説明するが、当然、信じられるものではない。

しかし、父は、「話は信じられないが、その顔は、浦島家の者と考えても不思議ではない」と、お金を与えて、「村から立ち去れ」と言いますが、「もう二度と、故郷を離れたくは、ありません」と、太吉は、村を出ることを拒否。

「ならば、一生、土蔵に閉じ込めておくぞ。それでも、良いのか」

と、父は言う。

「喜んで」

と、太吉は、それを承諾。

 

太吉は、浦島家の土蔵の中で、座っている。

外では、子供の頃の自分と、里子が、話している声が聞こえていた。

と、言うラストシーン。

 

すでに、無くなってしまった故郷。

そして、もう二度と、会えないと思っている人。

もし、再び、その場所に戻り、また、その人に会えるのだとしたら。

これほど、嬉しいことはない。

 

僕も、また、子供の頃の、毎日が楽しかった日々、そして、多くの人が居て、多くの小さなお店があり、賑やかだった頃の町の風景を、また、見ることが出来るのなら、また、見てみたい。

ずっと同じ場所に住んでいますが、あの頃のものは、多くが、無くなって行ってしまった。

 

時が過ぎて行くということは、寂しいことが多い。

そして、もう、二度と、元には戻らないということ。