岩波文庫の、プルースト作「失われた時を求めて」の第二巻に収録されている、第一編「スワンの家のほうへ」の第二部「スワンの恋」を読了。
やはり、とても、面白い。
でも、とても長い。
岩波文庫、第一巻に収録されている第一部「コンプレー」は、「私」が住んでいるコンプレーという田舎町が舞台でしたが、第二部の「スワンの恋」では、時間が、「私」が生まれる前、または、生まれた頃に、遡り、舞台は、パリに移る。
この「スワンの恋」では、「私」が、スワンから聞いた話という格好で、文章が綴られている。
つまり、今回、主人公となるのは「スワン」です。
ちなみに、「スワン」とは、ユダヤ系株式仲買人の息子で、ブルジョワでありながら、パリ社交界の寵児。
美術に造形が深く、女好き。
この「スワン」は、「コンプレー」でも、「私」の家に出入りをする人として登場する。
そして、その時のスワンは、結婚をしていて、その結婚相手の女性によって、スワンを非難する人も居る。
第二部、「スワンの恋」では、このスワンと、後に結婚をすることになる「オデット」という女性との恋愛が、描かれます。
なぜ、第一部「コンプレー」で、スワンが、結婚相手によって、非難をされているのか。
それは、相手の女性、つまり、オデットが、「粋筋の女(ココット)」であったため。
この「粋筋の女」とは、「裕福な男の愛人として生活をする女性」ということになるようです。
そして、相手の男は、一人ではない。
何人もの男と、関係を結んでは、お金を貰って、生活をしている。もちろん、売春もする。
オデットは、そういう女。
そのため、第一部「コンプレー」では、スワンは、その結婚相手によって、人によっては、非難をされることになる。
なぜ、裕福で、社会的身分もあるスワンは、オデットと結婚をすることになったのか。
最初に種明かしをすると、実は、この第二部「スワンの恋」では、二人は、結婚をしません。
この第二部「スワンの恋」では、二人の出会いから、スワンの恋愛熱に火がつき、オデットに熱中してから、その恋愛熱が冷めるまでが描かれています。
つまり、第二部「スワンの恋」では、結局、何の進展も無いということ。
スワンの、オデットに対する心理状態が、実に、詳細に、饒舌に書かれている。
しかも、長い、長い話。
まず、スワンという男が、いかに「女好き」かということが描かれる。
興味を持った女性に近づくための手段は、選ばない。
同時に、複数の女性と付き合うことも、厭わない。
そんな中で、スワンは、知人に紹介されて、オデットと出会うことになる。
最初、スワンは、オデットのことを「美人ではあるが、好みのタイプではない」と思う。
しかし、そこから、オデットは、スワンに、積極的なアプローチを始めた。
自分に恋愛感情があると思わせるオデットの行動を、スワンは、煩わしく思う。
スワンは、そんなオデットの態度に、つかず、離れずの距離を取る。
そして、スワンは、オデットに「ヴェルデュラン夫妻」が主催をするサロンに招待された。
ヴェルデュラン夫妻は、裕福なブルジョワ。
このサロンに招待されるのは「少数精鋭」の人たち。
つまり、ヴェルデュラン夫妻の思うとおりに振る舞う、お気に入りの人たちということになる。
スワンは、違和感を持ちつつも、そのサロンに参加をする。
そして、ヴェルデュラン夫妻は、オデットが、スワンに好意を持っているということで、二人の交際の手助けをしようとする。
最初は、仕方なく、そのサロンに参加をしていたスワンだったが、ある事をきっかけにして、スワンは、オデットに熱烈な恋愛感情を持つようになる。
それは、オデットが、「ある画家の描く女性に似ている」と感じたこと。
また、それと同時に、「ヴァントイユ」という人物の作曲をしたソナタを聴いたこと。
二人は、相思相愛になった。
が、その相思相愛の期間は、つかの間で、オデットは、次第に、スワンとの距離を取り始める。
今度は、逆に、熱烈な恋愛感情で、オデットを追いかけ、他の女のことなど、目に入らなくなったスワンと、スワンから距離を取ろうとするオデット。
そこで「フォルシュヴィル」という男が、サロンに登場する。
今度は、オデットは、このフォルシュヴィルに好意を持っているらしい。
スワンは、それに、嫉妬をする。
一方、スワンは、少数精鋭のサロンの中で、ヴェルデュラン夫妻に嫌われる存在になっていた。
それは、貴族の社交界にも通じるスワンが、自分たちの思う通りに振る舞おうとしないため。
しかし、スワンは、自分が嫌われていることに気がつかない。
スワンは、自分とオデットとの交際の手助けをしてくれるヴェルデュラン夫妻のことを、素晴しい人たちだと思い込んでいた。
しかし、スワンを嫌うようになったヴェルデュラン夫妻は、オデットを、フォルシュヴィルと親密にさせようと行動する。
そして、スワン一人を、仲間はずれにして、サロンの人たちを連れて、泊まりがけで、遊びに出かけることに。
しかし、サロン仲間の一人が、うっかりと、スワンに、そのことを耳に入れてしまった。
当然、スワンは、激怒し、ヴェルデュラン夫妻を「最低の人間だ」と非難し、サロンに足を運ぶことを止める。
スワンは、本来、自分が居る場所である社交界に戻る。
そこでは、スワンは、引く手あまたの人気者。
だが、スワンの頭の中は、オデットのことで一杯のまま。
どこで、何をしていようが、スワンは、常に、オデットのことを考えている。
ヴェルデュラン夫妻のサロンにも行かず、オデットも、何かと理由をつけて、スワンに会おうとはしない。
しかし、スワンの心の中からは、オデットが、離れない。
恋愛熱は、高まるばかり。
そして、ある時、スワンのところに、オデットの醜聞が記された手紙が届く。
オデットが、様々な男を肉体関係を持っていること。
オデットが、売春宿にも、出入りをしていること。
また、オデットが、同性愛にも、手を出していること。
スワンは、この手紙を、誰が、自分に送って来たのかと、疑う。
そして、スワンは、オデットの元を訪れ、それとなく、この手紙の内容が真実なのかどうか、探りを入れることにする。
オデットは、スワンのしつこい態度と、追及に、事の真実を、少し、話す。
それは、同性愛にも手を出したことがあること。
そして、スワンが、オデットのことを好きになる前から、フォルシュヴィルと親密な関係だったこと。
そして、スワンの中で、オデットへの恋愛感情が、急速に、消えて行く。
「ここ数年、無駄な時間を過ごしてしまった」
と、言う物語。
個人的に、第二部「スワンの恋」をまとめると、このような感じ。
スワンは、オデットという女性に、何を見ていたのか。
なぜ、オデットを好きになり、なぜ、オデットに、それほど、熱を上げることになったのか。
それは、「完全な、錯覚」ということになる。
恋愛感情とは、個人的な錯覚に過ぎない。
と、言うことを、作者は、言いたかったのでしょうかね。