さて、この本から、短編「七年前の顔」。

 

 

主人公は、「政生」(まさお)という名前の女性。

男のような名前で、子供の頃から、周囲にからかわれていたが、23歳の時に、結婚。

しかし、夫は、終戦後も、満州に留まり、政生は、一人息子と共に、実姉の家に厄介になっていた。

 

その頃、経済的に苦しい生活をしていた政生は、あるデパートの特売で、一人息子のために、子供用の傘を買おうかどうか、悩んでいた。

外は、雨が降り始めている。

悩んだ末に、政生は、その傘を買うことにした。

そのまま、傘を差して帰ろうと、包装はしてもらわなかった。

 

が、エレベーター乗り場の手前に来たところで、一人の男に呼び止められる。

 

「ちょっと、事務所まで来てもらえませんか」

 

万引き犯と間違われたのである。

 

政生は、事情を説明するが、男は、納得をしない。

ようやく、傘を買った時の女性店員に、確かに、傘を買ったことを証明してもらったのだが、政生の悔しさは、晴れない。

 

それから間もなく、夫が、満州から帰国。

事業に成功し、政生は、裕福な生活を送ることが出来る身分となった。

 

そして、あの万引き犯に間違われた出来事から7年後。

政生は、あのデパートを訪れる。

目的は、あの時の、あの保安員の男に、屈辱を受けた恨みを晴らすこと。

 

政生は、デパートの中を歩き、あの保安員の姿を見つける。

そして、わざと、その男の見えるところで、さも、万引きをしているかのような行動を取るのだが……。

 

さて、「万引き」というもの。

 

お店を経営している人にとっては、深刻な問題でしょう。

一つの品物が「万引き」されることで、何個もの品物を売らなければ、利益を取り戻すことが出来ないというのは、よく言われるところです。

 

お金が、無く、お腹がすいて、仕方が無い人が、食べ物を「万引き」するというのなら、事情は、分かる。

しかし、今の時代、多くの場合、「万引き」の動機は、そうではないようですね。

 

ほんの、軽い気持ち。

遊び半分。

ゲーム感覚。

 

今では、若者だけではなく、かなりの高齢者でも、万引きをする人が多いように、よく、テレビなどでも話していますよね。

 

さて、僕自身、万引き犯が確保される場面を、、二回、見た経験があります。

 

一度目は、高松に通っていた頃、丸亀町商店街にある本屋の宮脇本店で。

 

当時、よく立ち寄っていた宮脇本店で、いつものように、棚を本を眺めながら、一階を、ぶらぶらとしていたところ、突然、近くに居た若い男が、ドドドドッと、勢いよく、外に向かって走り出したかと思うと、二人の男性が「コラっ、待て」と叫びながら、その若者を追いかけて、走って、店を出て行きました。

一体、何だ? と、その時は思ったのですが、恐らく、万引きをしているところを、見つかったのでしょう。それで、若者が逃げ出し、店員、または、保安員が、追いかけたのだろうと思います。

 

二度目は、岡山市の築港新町にあった「AZ」という本屋の駐車場。

 

僕が、ある日、本を買って、帰ろうと、車に乗りかけたところ、近くに止めてあった車に乗ろうとした男性が、二人の男に呼び止められ、「ちょっと、一緒に来てもらえますか」と言われ、店の中に、連れて行かれていました。

この時は、すぐに、「万引きだな」と、ピンと来たのですが、その男の乗ろうとしていた車は、かなり高そうな乗用車。

お金が無い訳ではないのは明らかで、何で、万引きなどするのか、と、思うところ。

 

そして、身近にも、軽い気持ちで、万引きをしている人間が、居たんですよね。

 

高校生の頃、友達から聞いた話。

 

その友達は、人付き合いが良く、交友関係の広い人で、僕にとっては、当時、ほぼ、唯一と言っても良い友達だったのですが、その友達にとっては、僕は、多くの友達の中の一人。

そして、その友達の友達が、気軽に、万引きをする人間だったようで、「一緒に出かけた時に、○○を、そいつが万引きした」という話を、何度か、聞いたことがあります。

その友達というのは、家が貧しいという訳ではなく、不良少年という訳でもなく、頭も良く、勉強のよく出来る男で、有名国立大学に進学をした。

 

本当に、純粋に、単なる「遊び」として「万引き」をしていたのでしょうが、厄介な話ですよね。

捕まることは無かったようですが、もし、捕まったら、どうするつもりだったのか。

それとも、捕まることを想定していないのか。

それとも、捕まったとしても、たいしたことは無いと思っているのか。