さて、この本から、短編「ノブコの電話」。
この短編「ノブコの電話」は、なかなか、個人的に関心のある話でした。
主人公は、春村八郎という会社員。
そして、春村は、同人誌で小説を書いていて、その小説が、ある賞を受賞し、それが、新聞に載り、会社でも話題になる。
会社でも、春村ことが話題になっていた。
実は、春村が、その小説を読んで、その小説が、自分の会社をモデルにしていることに気がつかないかどうか、心配をしていた。
舞台は、明治時代の酒屋とし、出来るだけ、周囲に分からないように書いているが、登場人物や、その人物の行動などは、今の会社をモデルにしている。
そして、その日、会社に、かつての同級生、北山安三という男が訪ねて来た。
春村は、北山と、特に、親しかった訳ではない。
なぜ、北山が、わざわざ、会社に、自分を訪ねて来たのか。
春村は、不審に思う。
その時、「ノブコ」と名乗る女性から、電話がかかってきた。
この「ノブコ」は、春村の知らない女性。
ノブコは、同人誌を読んでいて、春村のファンだという。
そして、ノブコは、春村にお祝いの言葉を言って、電話は終わる。
北山は、それから、しばしば、春村を訪ねて来て、小説のことを聞いた。
なぜ、北山が、自分の小説に、関心を持つのか。
「実は、自分は、小説を書きたいんだ。どうやったら小説が書けるのか、教えて欲しい」
と、北山は、言い、
「身の回りのことを書けば良いんだよ。そうすれば、誰でも、一つは小説が書ける」
と、春村は、言う。
そして、また、ノブコから電話がかかって来た。
何だか、少し、声が違うとは思いながらも、
[春村に会いたい」
と、言われて、春村は、ノブコに会いに、出かけて行く。
出会ったノブコは、また、北山と同じようなことを、春村に、聞いた。
それは、小説の内容のこと。
小説の登場人物に、モデルはいるのか。
実際に、小説に書かれていることが、会社の中でも、あったのか。
春村は、ノブコと会って、良い気分になり、小説のモデルのことを、ノブコに話してしまう。
これは、他の人には、話さないようにと、一応、念を押したのだが……。
さて、北山の目的は、一体、何なのか。
そして、ノブコと名乗る女性は、何者なのか。
この「小説を書く」ということ。
日本では、「私小説」なども人気なので、自分自身のこと、そして、自分の周囲のことを、多少のフィクションを交えながら、書く人も多いのではないでしょうかね。
また、「エッセイ」などは、そもそも、そのまま、自分自身、そして、周囲で起こった事実を書いているのでしょう。
こういった、プロの作家、エッセイストなどが書いたものに、自分のことが書かれた場合、書かれた人は、一体、どのような感覚になるのでしょうね。
自分自身のことが、文章として書かれ、本になり、店頭に並んでいる。
そして、多くの人が、自分自身のことを読んでいる。
自分のことが「良い感じ」に書かれている場合は、許せるかも知れませんが、他人に知られたくないことや、自分が「悪い感じ」で書かれている場合は、なかなか、不満が出るものなのではないでしょうかね。
そういう時、自分自身と、その作家との関係は、どうなるのでしょう。
やはり、自分のことを悪く書くような人とは、距離を取ることになるのでしょうし、作家の方としても、それを覚悟の上に書くのだろうと思いますが。
実際に、自分をモデルに、勝手に、小説を書かれたと、裁判になったケースも、いくらかあるようですが、そうなると厄介ですよね。
まあ、あまり読む人も居ないブログに書く程度なら、何も無いとは思いますが。