さて、役所、役人の理不尽、不合理さと言えば、思い出すのが、映画「生きる」の冒頭のシーン。
黒澤明監督の名作の一つですよね。
公開は、1952年。
主人公は、志村喬さん演じる「渡辺」で、渡辺は、市役所の市民課の課長。
仕事と言えば、日々、机に座って、書類の判子を押すくらい。
ある日、その市民課に、婦人の団体が訪ねて来る。
「雨が降ったら、下水が溢れて、広場が大変なことになるので、何とかして欲しい」
と、訴える。
「それなら、○○の担当だから、○○へ行ってくれ」
と言われ、婦人の団体は、そちらに移動して、同じことを訴える。すると、
「それは、○○だから、○○の方に行ってくれ」
と言われ、また、そちらに移動。すると、また
「それだったら、○○なんで、○○の方へ」
と言われ、また、そちらに。
そして、いくつもの部署を回り、最後に、
「そういう要望を受け付けるために、市民課があるので、そちらに行って」
と言われ、結局、最初の場所に行くように言われ、婦人の団体は、怒って、帰ってしまう。
さすがに、ここまで酷いことはないでしょうが、役所の窓口というのは、なかなか、ややこしいですよね。
もう長く、役所に行くことはないので、今では、随分と、改善されているのかも知れない。
若い頃、何度か、転職をしたので、健康保険の切り替えに、苦労をした経験があります。
仕事を辞めると、健康保険が無くなってしまう。
次の仕事が、何時、決まるのか分からないし、もし、決まっても、何ヶ月も、試用期間だということで、健康保険をくれない会社もある。
僕は、持病があり、医者通いをしているので、無保険の間、全額自費で治療費を払い続けるという訳にも行かない。
それで、一応、国民健康保険に入るのですが、これが、なかなか、厄介なもの。
普通、会社を辞めたからといって、国民健康保険に入るという人は居ないのか、そもそも、会社の方が、その手続きを理解していないので、その説明が、また厄介。
みんな、転職をする時には、どうしているのでしょう。
次の仕事が決まってから、仕事を辞める人には、次の会社で、健康保険を貰えば良い訳ですが、次の仕事のあてが無いまま、仕事を辞めた人も、ずっと、次の仕事が決まるまで、無保険で通しているのでしょうかね。
市役所に行けば、必要な書類が無いから出来ない、と、追い返され、辞めた会社に電話をして、書類を貰わなければならない。
嫌で辞めた会社に、また、関わりたくないですよね。
また、ある会社に入ったのですが、どうも、この会社の仕事は、続けられそうにないので、すぐに辞めようと思ったところ、そういう会社に限って、すぐに健康保険をくれたりするんですよね。
すると、市役所の方から、「会社の健康保険に入ったのなら、国民健康保険を止める手続きに来い」と通知が来る。
どこから情報が行くのか分かりませんが、それが分かっているのなら、勝手に、止めてくれれば良いのではないかと思うのですが。
それで、仕方なく、市役所に行って、手続きをする訳ですが、それから、間もなく、会社を辞め、また、国民健康保険に入るための手続きに、市役所に行くことになる。
マイナンバーカードが保険証になりますが、こういう面倒なことは、無くなってくれるのでしょうかね。
以上、余談が過ぎましたが、映画「生きる」について。
主人公の渡辺は、やる気の無い、その日が無難に過ぎれば良いという公務員ですが、実は、若い頃は、役所の事なかれ主義を改革しようと、意欲を燃やしていたんですよね。
この映画を、何度も、見返しているうちに、最初のシーンの渡辺の机の中に、その役所の組織改革のための提言書のようなものがあるのに、ようやく気がついたんですよね。
しかし、もはや、それは遠い過去で、渡辺は、その書類を、無造作に破って、ただの紙として使ってしまう。
そして、ある時、渡辺は、健康診断で、胃癌にかかっていることが分かる。
今では、癌といっても、多くの人が、治る病気になっていますが、当時、癌と言えば、亡くなるもの。
渡辺は、絶望するんですよね。
渡辺は、早くに妻を亡くし、息子を、懸命に育ててきた訳ですが、その息子は、すでに、自分のことなど、何とも、思っていない。
人生の目的を無くし、呆然としていた渡辺は、同じ市民課に勤めていた、元部下の小田切という若い女性に出会い、これといって、あてもなく、二人で、町で遊ぶことになる。
そして、これまで、真面目に働いてきた渡辺は、市役所を無断欠勤し、小田切と、毎日、遊び歩くことに。
渡辺は、生き生きとして、まだ若い小田切に引かれる訳ですが、事情を知らない小田切は、当然、そんな渡辺を、不審に思う。
そして、渡辺は、自分が胃癌であることを、小田切に打ち明ける訳ですが、小田切は、もう、長くは生きられない渡辺に、「何かを作ってみれば」と、軽く、勧めることに。
このシーン。非常に、印象的なんですよね。
ぜひ、映画を、見て欲しいところ。
そして、場面は、渡辺の葬儀のシーンに移る。
ここから、葬儀に出席をした人たちの回想という形で、小田切の言葉で、いわば「生まれ変わった」渡辺の姿が、描かれる。
役所の事なかれ主義、そして、役人の理不尽さを打ち砕き、公園の建設に懸命に取り組む渡辺の姿が、とても凄い。
人間って、信念があれば、このようなことも出来るのだと、見る人に教えてくれる。
良い作品です。
さて、この映画「生きる」は、あのノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの脚本で、イギリスでリメイクされたんですよね。
アマゾンプライムで見ようと思ったのですが、吹き替えが無いようなので、今のところ、まだ、見ていない。
また、以前、アメリカで、トム・ハンクスを主演にリメイクをするという話もあったようですが、そういう映画があったような記憶が無いところからすると、結局、製作されなかったのでしょうかね。
それとも、僕が知らないだけなのか。