樋口一葉の小説「にごりえ」。
この「にごりえ」は、「たけくらべ」と並んで、樋口一葉の代表作ということになるのでしょう。
主人公は、銘酒屋「菊の井」の看板酌婦「お力」という女性。
この「銘酒屋」というのは、「銘酒を売る」という飲み屋が、表向きなのですが、実際は、売春宿。
そこで働く「酌婦」という女性は、客の酒の相手をするのと同時に、売春をする「私娼」ということになる。
お力は、「菊の井」で、絶大な人気を誇る看板酌婦。
この、お力には、かつて、「源七」という客が居て、この源七は、繁盛をしていた蒲団屋の主人だったのだが、お力に入れ込み、財産を全て、失い、今では、長屋で貧乏暮らし。自身の肉体労働と、妻の、お初の内職で、何とか生活をしている。
ある日、お力は、結城朝之助という男を、店に呼び込んだ。
この結城朝之助は、経済的にも裕福で、社会的地位もある男性。
朝之助は、お力が、酌婦をしている事情を聞こうとするが、お力は、それをはぐらかす。
朝之助も、それは同じで、酌婦たちに素性を聞かれても、あまり、はっきりとしたことは話さない。
源七は、まだ、お力に未練があり、店に来たりもするが、もはや、お金の無い源七は、お力の相手にはなれない。
お力は、源七を冷たくあしらい、会うこともない。
その一方で、お力は、次第に、朝之助に、引かれることになる。
ある時、お力は、「菊の井」の中で、客の集まる宴席の最中、ふと、自分の境遇に厭世を感じ、宴席を離れ、外を歩く。
自分の不幸な境遇を振り返り、嘆きながら、一人、町の中に居たところ、偶然、そこを通りかかった朝之助に、声を掛けられる。
お力は、朝之助と共に、「菊の井」に戻る。
お力は、そこで、朝之助に、自身のこれまでの人生を話し、朝之助に、自分の恋心を打ち明けるが、朝之助は、お力の気持ちを、受け止めることなく、はぐらかす。
その日は、お力は、朝之助を、強く引き留め、一夜を共にした。
一方の、源七は、未だに、お力に、強い未練があり、全く、仕事に身が入らなくなってしまった。
働こうとしない源七に、妻のお初は、不満を募らす。
そこに、息子の太吉が、高価なカステラを持って、長屋に帰って来た。
そのカステラをくれたのが、お力だと知り、お初は、憤懣遣る方ない。
お力に、カステラを貰って喜んでいる太吉を説教し、カステラを、溝に捨ててしまう。
それを見ていた源七は、「太吉にかこつけて、俺を責めている。いつまでも、お力のことで怒っているのなら、もう、この家から出て行け。出て行かないなら、俺が出て行く」と、二人は、離婚をすることに。
そして、ラストシーンとなる訳ですが、このラストシーンは、樋口一葉の他の小説にも見える独特のもので、直接的に、出来事を描いている訳ではない。
お力の遺体が、葬儀のため「菊の井」から運び出される。
なぜ、お力が死んだのか。
その状況が、周囲からの説明によって語られる。
お力は、源七と会っていたらしい。
なぜ、お力が、源七と会っていたのか。
その状況も、人によって語られるだけで、真相は、分からない。
お力の遺体の状況から、お力は、逃げようとしたところを、源七によって殺害されたらしいということ。
そして、源七も、お力を殺害した後に、自殺をした。
悲しい結末です。
さて、ウィキペディアを見ると、この「にごりえ」の主人公の「お力」は、本郷区丸山福山町に一葉が住んでいた頃、家の隣にあった銘酒屋「鈴木亭」の酌婦「お留」をモデルにしていると言われているそうですね。
その辺りには、多くの銘酒屋があり、一葉は、頼まれて酌婦たちの恋文の代筆などをしていたということ。
一葉と、彼女たちとの交流は、「日記」にも、色々と書かれていて、面白い。
また、結城朝之助のキャラクターには、一葉が師事していた半井桃水の影響があるということのよう。
この半井桃水と、一葉の関係もまた、「日記」に色々と書かれている。
また、「日記」の方も、読み返してみなければ。