漫画「石ノ森章太郎の物語」という本があります。
この本に収録されているのは、石ノ森章太郎の描いた、石ノ森章太郎自身が登場する漫画です。
大きく、「第一部」「第二部」に別れていて、「第一部」では、自伝的要素の強い漫画が収録されていて、「第二部」では、フィクションの要素の強い漫画が収録されています。
どちらも、とても、面白い。
石ノ森さんは、漫画家になる以前、ベートーベンに憧れ、音楽家になりたかったようですね。
しかし、自分には、音楽家になる才能は無いと、早々に、気がつき、諦め、そこからは、もっぱら、音楽を聴くことに集中する。
トキワ荘の部屋にも、ベートーベンのデスマスクを飾り、四畳半の中に、大きなステレオを置き、ベートーベンのクラッシックを聴きながら、漫画を描いていたのは有名な話。
しかし、石ノ森さんが、なりたかったのは、音楽家だけではない。
活字中毒で、一日、一冊、本を読まなければ寝ることが出来なかったという話も、この漫画の中に出て来ますが、どうも、石ノ森さんは、漫画家よりも、小説家になりたかったと、他の本に書いてあったのを読んだ記憶があります。
また、新聞記者になりたいという思いもあったようで、漫画を描くのは、将来、新聞記者になるために、大学に行くための学費を貯めようという意図があったという話も。
また、ある本によれば、一時、ほんの僅かな間ですが、アニメ製作会社で働いたことがあるようで、その時には、本気で、その会社に就職をしようとしたようですが、会社の方から断られたということのよう。
これは、恐らく、石ノ森さんの漫画家としての才能を惜しんで、と、言うのが、会社側の意図だったのでしょう。
しかし、この「漫画を描く」ということに、類い希な才能を持っていた石ノ森さんは、結局、漫画家という仕事から離れることは出来なかった。
もっとも、それは、日本にとって、幸いだった、と、言うことになるのでしょう。
さて、「第二部」の、フィクションの要素の強い物語の中に、石ノ森さんを訪ねて来る、ファンの女性の話があります。
この本の解説にもありましたが、かつて、有名人の住所は公開されていて、ファンが家を訪ねて来るということは、実際に、あったのでしょう。
今では、考えられないですよね。
当時、それでも、トラブルが無かったということは、非常識なファンや、悪質な犯罪を企む人が、社会の中に、少なかったということなのでしょうかね。
そういえば、僕が子供の頃、雑誌「中一コース」など、読んでいましたが、それに、文通コーナーがあり、「私と文通しませんか」と、本人の顔写真とか、住所が掲載されていたんですよね。
それでも、何か、大きなトラブルに巻き込まれたという話は無かったのでしょうから、平和な世の中だった、と、言うことですよね。
そういう時代が、懐かしい気がします。