芥川龍之介の小説「河童」を読了。

以前、この「河童」を読んだのは、もう、30年くらい前のこと。

その時は、あまり面白いものとは思わず、それから、一度も、読み返すことは無かった。

しかし、今、改めて、読んでみると、なかなか、面白い。

 

 

この小説は、ある精神病院に入院をしている患者から、聞き取ったもの、という形式になっています。

この男は、ある日、登山に出かけるのですが、その途中で、深い霧に巻き込まれ、そこで、河童を目撃します。

そして、その河童を追いかけた男は、河童の住む世界に入り込むことになる。

 

この河童の住む世界は、日本の人間社会と、特に、変わったところはない。

違うのは、そこに住んでいるのが河童だということ。

そして、河童たちの常識や価値観。

 

河童の社会に住むことになった男は、この河童たちの常識や価値観の違いや、河童たちの言動に戸惑うことになる。

 

恐らく、この小説に登場する河童たちの価値観や言動には、当時の日本社会への批判や、芥川の精神状態が反映されているのでしょう。

しかし、それを解読するには、当時の日本社会の様子や、芥川の精神状態を知らなければならない訳で、それは、なかなか、難しい。

しかし、今、読んでも、なかなか面白い河童の価値観、言動は、いくつもあります。

 

恐らく、この「河童」の中で、最も有名なエピソードは、河童の「出産」に関する話ではないでしょうかね。

主人公の「僕」は、河童の友達である「バッグ」の妻が、出産をするところを見に行くことになるのですが、今、まさに出産をするというその時、「お前は、この世界に生まれてくるかどうか、よく考えて返事をしろ」と、お腹の中の子供に聞きます。

すると、お腹の中の子供は「僕は、生まれたくありません」と答え、その理由も述べる。

そして、お腹の中の子供は、人間社会で言う中絶をされることになる。

 

なかなか、怖い話ですよね。

スピリチュアル系の本を読んでいると、「子供は、親を選んで生まれてくる」という話が書かれていることが、よくあります。

果たして、それは、事実なのでしょうかね。

親から虐待を受けて亡くなる子供が、後を絶たないところを見ると、とても、そうとは思えないところもある。

 

そして、老人として生まれ、だんだんと若返って行くという一人の河童が登場します。

この河童もまた、芥川の何かの意図を含んでいるのでしょうが、この河童で、芥川が何を言いたかったのかというのは、個人的には、よく分からない。

そして、「僕」は、その河童に、「それで、人生が楽しいのか」と聞きますが、その河童は「私も、生まれる時に、この世界に生まれることを承諾して生まれたのですよ」と答える。

なかなか、深いものがある気がする。

 

さて、今の現代社会に通じる話ではないかと思えるエピソードが、一つ。

 

河童の社会でもまた、科学の進歩によって、それまで、河童のやっていた仕事が、機械に仕事を奪われるという事態が進んでいる。

そして、機械に仕事を取って代わられた河童たちは、大量に仕事を失うことになる。

しかし、河童の社会では、この大量失業の話は、社会問題になっていない。

それは、なぜかと、「僕」は、疑問に思って、河童に尋ねる。

 

すると、河童からは、驚愕の返事が。

 

大量に失業をした河童たちは、何と「食糧」に変わるということ。

失業をした河童たちは、殺されて、他の河童たちの食糧になる。

理論として考えれば、失業問題と食糧問題を同時に解決する良い方法とも言えますが、何とも、怖い。

人間社会では、倫理的に許されない話。

 

やはり、社会経験の無い子供が読んでも、なかなか、理解の出来る内容ではないですね。

やはり、社会の様々な常識や価値観を学んでからでないと。