芥川龍之介の代表作として、まず、名前が挙がるのは「羅生門」ではないでしょうかね。
この作品は、まだ、東京帝国大学の学生だった大正4年(1915)に、雑誌「帝国文学」に発表されたものだそう。
この「羅生門」は、「今昔物語」の中にある、ある一話を元にした物語。
舞台は、平安時代の、荒廃した羅生門。
住む場所もなく、行く場所もなく、仕事もない下人が、ある日、この羅生門で、ある出来事を経験することになる。
さて、「芥川龍之介」と聞いて、思い出すのは「羅生門」でしょうが、逆に、「羅生門」と聞いて、思い出すのは「芥川龍之介」ではなく、「黒澤明」ではないでしょうかね。
黒澤明監督の映画「羅生門」。
この映画「羅生門」が公開されたのは、昭和25年(1950)。
そして、なんと言っても第12回ヴェネツィア国際映画祭で「金獅子賞」を受賞。
一躍、黒澤明の名前が、世界に知れ渡ることになる。
さて、この映画「羅生門」を初めて見た時、何の予備知識も無かったもので、見ていて「何だ、これ?」と、思ったんですよね。
芥川龍之介の「羅生門」とは、内容が違い、むしろ、同じ芥川龍之介の小説「藪の中」に近い。
ネットで調べて見ると、実際、この映画「羅生門」の脚本は、「藪の中」が元になっていて、それに「羅生門」のエピソードが付け加えられているということ。
さて、小説「藪の中」、そして、映画「羅生門」ですが、どちらも、ある一つの事件があり、その事件について、関係者が、次々と証言をして行くというもの。
しかし、その証言をする人によって、事件の内容が、まるで異なる。
さて、事件の真実は、どこにあるのか。
そして、なぜ、証言者は、それぞれ異なる、そのような証言をしたのか。
ウィキペディアによれば、一つの出来事を、複数の人物の視点で描く手法は、この映画から始まり、海外では「羅生門効果」と呼ばれるそうですね。
また、太陽にカメラを向けて撮影したのは、この「羅生門」が最初というのは、有名なエピソードですが、実は、同じ黒澤明監督の昭和24年(1949)の映画「野良犬」でも、太陽にカメラを向けて撮影したシーンがあるんですよね。
この映画「野良犬」は、大好きな映画なので、また、紹介をすることもあるでしょう。
そして、この、一つの事件を、関係者の様々な異なる証言で描くという映画に、2006年に公開された西川美和監督の映画「ゆれる」があります。
この映画も、なかなか、面白い。
舞台は、田舎の小さな町。
香川照之さん演じる「早川稔」は、実家のガソリンスタンドを受け継ぎ、そこで仕事をしている。
そして、そのガソリンスタンドで従業員として働いているのが、真木よう子さん演じる「川端智恵子」という女性。
稔は、智恵子に好意を持っている。
しかし、智恵子は、オダギリジョーさん演じる稔の弟、早川猛のことが好き。
猛は、東京でカメラマンをしているのだが、母親の法事で、久しぶりに町に帰って来る。
そして、久しぶりに再会をした猛と智恵子は、一夜を共にする。
翌日、稔、猛、智恵子の三人は、山の中の渓流に遊びに行くのですが、その時、智恵子が、吊り橋から、渓流に落下し、亡くなってしまう。
その時、智恵子の側に居たのは稔で、猛は、その時、現場には居なくて、智恵子が渓流に落下をした瞬間を見ていなかった。
稔は、智恵子を殺害した容疑者として警察に逮捕される。
そして、裁判になる訳ですが、証言者によって、智恵子が吊り橋から落下をした時の状況が、様々に異なるんですよね。
さて、真実は、どこにあるのか。
この映画「ゆれる」を見て、個人的に、香川照之という役者さんの演技力の凄さに感心したんですよね。
あの不祥事以来、テレビに出ることは無いようですが、役者として、実に、惜しいと思うところです。