さて、「量子」というものの、とても不思議な現象を、何か社会に応用出来ないかと考えるのが人間で、その「量子」の「重ね合わせ」という不思議な現象を使って、今、実用化に向けて、急速に研究が進んでいるのが「量子コンピューター」です。
その「量子コンピューター」に使用される「量子ビット」の話も、雑誌「ニュートン」の今月号に掲載されていました。
今、社会で使用されている従来の「コンピューター」は、「0」と「1」の信号で成り立っています。
この「0」と「1」を表示する単位を「ビット」と呼びます。
例えば「01101011」という表示は「8ビット」ということになります。
現在の「コンピューター」は、全て、この「0」と「1」を表示する「ビット」の単位で動いています。
ちなみに、この「8ビット」は「1バイト」という単位になります。
更に、「1MB(メガバイト)」は「100万バイト」、「1GB(ギガバイト)」は「10億バイト」ということになります。
つまり、「コンピューター」を操作するには、基本的には、この「0」「1」を、延々と入力をしてやらなければならない。
しかし、それでは、あまりにも膨大な手間がかかる上に、それを見ても、何をする命令か分からないということで、この「0」「1」の「2進数」を「16進数」に変換したものが「マシン語」ということになります。
しかし、それでも、数字の羅列であることに変わりはない。
もっと、分かりやすく、「コンピューター」への命令が書けないかということで、「プログラム言語」が生まれる訳ですが、それは、また、別の話。
さて、現在、研究が進んでいる「量子コンピューター」では、この「ビット」の代わりに「量子ビット」というものが使われます。
この「量子ビット」は、「量子の重ね合わせ」という不思議な状態を利用したもので、この「0」と「1」を、同時に表示することが可能です。
つまり、現在のコンピューターが「0」「1」を、延々と繰り返して計算をするのに比べて、「量子コンピューター」では、瞬時に、最適な「0」と「1」を導き出すことが可能です。
つまり、現在のコンピューターでは比較にならない、とんでもない高速で計算をすることが可能になるということ。
一年ほど前だったと思いますが、現在、研究が進められている、ある「量子コンピューター」が、現在の「スーパーコンピューター」が、何万年もかかる計算を、ほんの数分で解いてしまったという報道がありました。
もっとも、これは、ある特定の条件の下での設定で行われた計算だということで、全ての計算を、この速さで行えるという訳ではないようです。
しかし、「量子コンピューター」の計算速度が、とてつもなく速いということには変わりない。
さて、この「量子コンピューター」に使用される「量子ビット」とは、どのようなものなのか。
この「量子ビット」は、「0」と「1」に相当する2種類の状態を取ることが出来、しかも、それが「重ね合わせ」の状態になることが出来るものであれば、何でも良いそうです。
今、現在、開発が進められている「量子ビット」の主な方式には5種類があるそうです。
一つは「超伝導回路」と呼ばれるもの。
これは、超伝導回路を流れる電流の向きを「0」と「1」に対応させるものだそうです。
制御しやすい(操作性が高い)という反面、極低温に冷やす必要があります。
一つは「半導体(量子ドット)」を使うもの。
これは「量子ドット」という微細構造の中に閉じ込められた電子のスピンの向きを「0」と「1」に対応させたもの。
これは、量子状態を、長く、維持しやすい反面、超伝導回路に比べると、集積性に難があるということ。
一つは「イオントラップ」と呼ばれるもの。
これは、原子核の周囲を回る電子の高さ(エネルギー準位)を「0」と「1」に対応させたもの。
操作性が比較的高い反面、操作が遅いという欠点があるということ。
一つは「光子(光量子)」を利用したもの。
これは、光子の偏向の向きなどを「0」と「1」に対応させたもの。
装置を冷却する必要がなく、通信に向いているということ。
しかし、操作性が低く、量子状態の保存が難しいということ。
一つは「冷却原子(中性原子)」を使ったもの。
レーザー光を使って冷却した原子のエネルギーの高低を「0」「1」に対応させたもの。
量子状態を維持しやすいですが、操作性がやや低く、操作が遅いという欠点があるそうです。
これらの「量子ビット」の種類には、それぞれに、一長一短があるそうで、今、開発競争の戦国時代といった様相のようです。
この中で、現在、最も、開発が進んでいるのが「超伝導回路」を利用したもの。
しかし、この「超伝導回路」を利用した「量子コンピューター」は、開発、製造に巨額の費用がかかるので、資金力が無ければ、なかなか、開発は難しいということ。
IBMや、Googleが、このタイプの「量子コンピューター」の開発を進めています。
それに対して、アメリカのスタートアップ企業などが、比較的、費用のかからない「冷却電子(中性原子)」を使用した「量子コンピューター」を開発し、注目を集めているそうです。
この「量子コンピューター」が、現在のコンピューターと同じように、正確な計算を行うには、計算途中で、一定確率で発生するエラーを訂正する仕組みが必要だそうですね。
そして、その誤りを訂正する仕組みを備えた実用的な「量子コンピューター」を作るには、量子ビットが、少なくとも、数千から数万は必要だそうですが、現在、量子ビットの数は、300から1000個ほどに到達。
この、大量の量子ビットの「重ね合わせ」や「もつれ」を維持し続けるというのは、相当に、大変なことだそうですね。
高度な制御技術や、大規模な設備が必要になるということで、それが、この「量子ビット」の数を増やすことを困難にしているという話。
さて、以下、余談。
この「量子コンピューター」が実用化されると、現在、インターネットの中で使われている暗号が解読されてしまうと言われているそうで、その対応もまた、考えなければならないという話。
現在、この暗号の「鍵」として、「素数」が重要な要素として使われている訳ですが、この「鍵」となっている「素数」を探すには、スーパーコンピューターを使っても、何万年もかかるという話で、ほぼ、不可能。
しかし、スーパーコンピューターで数万年かかるという計算を、「量子コンピューター」が、ほんの数分で解いてしまうというのから、この「素数」を見つけ出すことを可能ですよね。
だから、暗号が破られてしまう。
そこで、この「量子もつれ」を利用した「量子暗号」の開発もまた、進められているよう。
その話も、記事の中に掲載されています。
さて、個人的な関心は、この「量子コンピューター」が、今後、実用化をされ、今のパソコンのように、一般家庭の中にも入り込んで来るのかどうか、と、言うこと。
どうも、記事を読んだ印象では、「量子もつれ」「量子の重ね合わせ」を、家庭用の小さなコンピューターの中で維持するということは不可能かと思われるので、例えば、「量子コンピューター」のノートパソコンのようなものは、出来ないような気がする。
やはり、実用化をするとしても、大企業や研究所が設置したものを、そこに、離れた場所からアクセスをして使用するという格好になるのでしょうかね。