古典文学の「堤中納言物語」の中に「虫愛づる姫君」という話があります。
この「虫愛づる姫君」は、あの「風の谷のナウシカ」のヒントになったのではないかという話もありますが、真実なのかどうか。
さて、まず、「堤中納言物語」について、ネットで、調べてみます。
平安時代後期以降の成立をした物語で、10の短編と、1つの断片から構成されているそう。
「逢坂越えぬ権中納言」
「花桜折る少将」(本によって、中将、大将の場合も)
「虫愛づる姫君」
「このついで」
「よしなしごと」
「はなだの女ご」(題名に関しては、諸説あり)
「はいずみ」
「ほどほどの懸想」
「貝合せ」
「思わぬ方にとまりする少将」
以上、10の短編と、未完の断片、一つ。
「逢坂越えぬ権中納言」は、天喜3年(1055)、「小式部」という人物によって書かれたことが分かっているそうです。
他の短編は、何時、誰が書いたのかは、分かっていないそう。
遅いものでは、13世紀以降の成立と考えられるそうです。
また、この10の短編の中に「堤中納言」という人物は、登場しないそう。
そのため、なぜ、このタイトルが付けられたのかも、不明だということ。
いくつかの説があるそうで、一説には、「つつみの物語」が、そもそものタイトルで、それが、いつの間にか、実在した「堤中納言」に関連づけらたのでは、と、言うことのよう。
さて、「虫愛づる姫君」。
蝶を可愛がる姫君が住んでいる屋敷のそばに、大納言の姫君が住んでいて、その姫君は、親たちに大切に育てられていた。
この姫君は「人々が、蝶や花をもてはやすのは、浅はかで不思議なこと。人間には誠実な心があり、物の正体を突き止めることこそ、心のあり方が優れている」と言って、怖そうな虫を採集し、「この虫が成長したらどうなるのか、観察をしてみよう」と、様々な虫を、虫かごに入れて、観察をしていた。
姫君は、その虫たちの中でも「毛虫が、思慮深い様子をしていて、奥ゆかしい」と言って、朝晩、手のひらに置いて、じっと見守っていた。
若い女房たちは、それを見て、とても怖がるので、姫君は、物怖じしない、身分の低い男の子を呼び寄せ、虫かごの中の虫たちを取らせて名前を聞き、更に、新しい虫には名前をつけて、面白がっている。
姫君は、「人は、みんな、取り繕うところがあるのは良くない」と言って、眉毛を抜くこともなく、お歯黒も「煩わしくて、きたない」と行って、しなかった。
真っ白な歯を見せて、笑いながら、虫たちを、朝晩、可愛がる。
姫君は、自分の部屋で、虫を見て騒ぐ女房たちを怒る。
親たちは、姫君のことを「とても見苦しく、風変わりだ。何か、悟っていることがあるようだが、普通ではない」と思いながらも、自分たちが意見をしても、姫君は、理屈を言って、やり込める。
「そうは言っても、外聞が悪い。人は、見た目が美しいことを好むので、毛虫などを面白がっているのが、世間の人に知られると、みっともない」
と、親が言うと、
「見た目など、幼稚なことです。この毛虫が、蝶になるのです。その全てのことを知ることで、物事が、はっきりと分かるのです」
と、姫君。
「人々が着る服は、蚕(カイコ)がまだ羽のつかないうちに作りだし、蝶になれば、役立たずになるのですよ」
と、更に、姫君は、続ける。
こういった虫たちを捕まえる男の子たちは、褒美がもらえるので、色々と、怖そうな虫を捕まえては、姫君のところに持って来る。
「毛虫は、毛など、可愛いけど、それにちなんだ詩歌や故事などが思い浮かばないので、物足りない」
と、姫君は言って、カマキリや、カタツムリを採集し、子供たちと一緒に、「カタツムリの角が、争うのは、なぜか」という句を、大声で、節をつけて歌ったりする。
姫君は、この男の子たちに、「普通の名前では、つまらない」と、虫の名前をつけていた。
このような姫君の様子は、当然、世間から、陰口をたたかれることになる。
そして、この姫君に関心を持つ右馬佐を務める男が登場する。
男は、様々に、姫君に対して、ちょっかいを出す。
男は、策を講じて、姫君の様子を見に行くと、実際に、姫君の姿を見て、「気品も器量もあるのだから、化粧をしないのが残念だ」と思う。
「なぜ、あなたは、そんなに変わった心を持っているのですか。残念だ」
という和歌を、男は、姫君に送り、姫君の侍女は、それを見て嘆くのですが、
「人間、悟ってしまえば、何も、恥ずかしいことはない」
と、姫君は、取り合わない。
当然、姫君と男の関係は、上手く行くはずもなく、最後は「第二話に続く」と書かれているそうです。
もっとも、この「第二話」というのは、存在しないよう。
主人公の「姫君」は、平安時代の女性としては、常識に捕らわれない、奔放な女性。
自分自身の信念を貫き、真実を求めようという考えを持つ。
面白いキャラクターですよね。
「姫君」と「毛虫」の関係は、「ナウシカ」と「王蟲」の関係と似ていると言えなくもない。
なかなか、面白いです。