今、日本では、「少子化」が、大きな問題になっている。

韓国では、日本よりも、更に、深刻な少子化が進んでいるという話で、中国では、韓国よりも、更に、深刻な少子化に向かっているという話。

しかし、藤子F不二雄さんが、SF短編を描いていた約50年くらい前、日本では、「少子化」よりも「人口増加」が問題になっていたようで、それをテーマにしたSF短編も、いくつかあります。

その中で、僕が、最も、インパクトを感じたのが「定年退食」という物語です。

 

 

人口の増加で、日本は、大きな人口を抱え、食料が足りなくなっている。

食料は配給制となり、人間は、今の「マイナンバー」のようなもので管理をされていた。

もっとも、足りないのは食料だけではなく、社会保障の多くが、人口を支えきれなくなっていて「第二次定年」というものが、設けられ、その「第二次定年」の75歳を過ぎると、食料の配給を始め、一切のサービスを、国から受けられなくなってしまう。

 

主人公は、その第二次定年を間近に控えた老人で、息子夫婦と同居をしている。

老人は、第二次定年に備えて、自分に配給される食糧の一部を、保存パックにして蓄えるようにしている。

老人は、その第二次定年の延長の申し込みに、市役所に向かう。

その途中で、同じく、第二次定年を間近に控えた、友達の吹山に出会った。

 

老人は、吹山と一緒に、市役所に向かうが、その時、吹山は、「申し込み用紙に、爪で跡を付けておけ。それが、贈賄の記しで、定年が延長されるから」と老人に言う。

老人は、「そんなこと、ある訳がない」と、表面上は、気にしないように装うが、市役所の窓口では、周囲の目を気にしながら、申し込み用紙に、爪で、跡を付ける。

 

そして、家に戻り、老人は、第二次定年の延長者の発表を待つ。

 

しばらくすると、定年延長者の発表が、テレビで始まった。

老人は、マイナンバーを手に、テレビに釘付けになるが、定年延長者の中に、自分のナンバーは無かった。

贈賄の意思表示をしたのに、何かの間違いではないか、と、老人は、また、市役所に出かけ、窓口で確認する。

「書類に、爪の跡を……」と、職員に、小声で話すが、「何のことですか」と聞かれ、やはり、嘘だったと悟る。

すると、近くの窓口で、同じく、定年延長に漏れた吹山が、職員に、猛抗議をしていた。

すると、その時、テレビで、臨時ニュースが始まった。

テレビに映ったのは、奈良山首相。

奈良山首相は、その臨時ニュースで、第二次定年を、72歳に引き下げることを発表。

もはや、それ以上の年齢の人口を、国は、養うことが出来ないと、断腸の思いで、首相は、メッセージを国民に向けて発表する。

 

失意の中、老人は、家に戻る。

 

翌朝、老人は、朝食を食べなかった。

「遠慮せず、食べて下さい」という息子夫婦のすすめに「食欲が無いんだ」と、家を出る。

公園を歩いていたところ、老人は、空腹で、倒れる。

監視カメラが、それを見つけ、「救急車を呼びましょうか」と言うが、「空腹で倒れただけだ。それと、もう、自分は、第二次定年を過ぎている」と、マイナンバーカードを、カメラに見せる。

「お役に立てなくて、申し訳ありません」

と、カメラは言う。

 

老人は、吹山と一緒に、公園のベンチに座り、話をしていた。

そこに、孫が、ガールフレンドを連れて、通りかかる。

「丁度、良かった。席を譲ってくれないかな」

と、孫は、老人に言った。

吹山は、怒るが、老人は、孫に、ベンチを譲る。

そして、老人は、吹山に、最後の一言を言う。

 

「もう、俺たちの居場所は、どこにも無いのさ」

 

ここで、物語は、終わる。

 

悲しい話です。