藤子F不二雄さんのSF短編で、今、放送さえれている実写版ドラマの中に「あいつのタイムマシン」がありましたね。
この「あいつのタイムマシン」は、なかなか、興味深いお話です。
この本に、収録されています。
主人公は、「正男」という男。
正男は、漫画家をしている。
今、タイムマシンを題材にした漫画を描こうとしいているのだが、なかなか、編集者の納得を得ることが出来ない。
この正男を友達が「鉄夫」という男。
二人は、子供の頃からの親友で、正男の妻である「みっちゃん」は、鉄夫の「いとこ」でもある。
そして、この鉄夫は、今、タイムマシンを作ることに没頭している。
なぜ、鉄夫は、生活の全てをかけて、タイムマシンを作ることに没頭しているのか。
それには、ある理由があった。
この「あいつのタイムマシン」は、いわゆる「時間のパラドックス」をテーマにしている。
時間旅行をテーマにした物語は、多いですが、必ず、この「時間のパラドックス」は、つきまとうもの。
一番、有名なのは「親殺しのパラドックス」でしょう。
タイムマシンで、過去に戻り、自分の親を殺してしまったら、自分の存在は、どうなるのか。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、この「親殺しのパラドックス」の一種ですよね。
主人公のマーティーは、アクシデントで過去に戻り、父親と母親の出会いを壊してしまう。
このままでは、自分が存在しなくなってしまうということで、必死で、父親と母親を結びつけようとするんですよね。
この映画の場合、父親と母親が付き合わなくなってしまえば、マーティー自身は、消えてしまうという設定だった。
この「タイムマシンで、過去に戻り、過去を変えてしまったら、自分が前に居た、未来の世界は、一体、どうなってしまうのか」という問題。
色々と、頭の中で想像すると、ややこしい。
普通に考えれば、過去を変えれば、未来が変わる訳で、自分が存在していたはずの未来は、自分が知っている未来ではなくなっているということになる。
その未来に、自分は、果たして、存在をするのか。
仮に、存在をしていたとして、それは、果たして、自分の知っている自分なのだろうか。
でも、自分は、自分として、今、ここに居る訳で、その自分は、一体、どこから来たことになるのか。
自分が体験をしていた時間旅行をするまでの人生は、消えてしまったということになってしまうのか。
この問題に、一つの答えとなるのは、「時間は、分岐をする」という考え。
つまり、時間の流れは、可能性の中で、分岐をして行くというもの。
つまり、過去に戻って、過去を変えれば、その時点で、時間の流れは、分岐をするということになる。
今、存在をしている自分は、その、無数に分かれた時間の流れの中の一人に過ぎない。
いわゆる「パラレルワールド」というもの。
この「パラレルワールド」に関しては、藤子F不二雄さんのSF短編の中に「パラレル同窓会」という面白いものがある。
そのお話も、上に挙げた、同じ本の中に収録されています。
さて、この「あいつのタイムマシン」に描かれているのは、もう一つの「パラドックス」です。
それは、「タイムマシンを発明したのは、誰なのか」ということ。
鉄夫は、生活の全てをなげうって、タイムマシンの発明に没頭しています。
そこに、漫画のアイデアに行き詰まった正男が、何か、タイムマシンに関するアイデアのヒントはないかと、やって来る。
すると、鉄夫は、何をするでもなく、部屋の中で、まるで、ドラえもんに登場するタイムマシンのようなものの上に座っていた。
「ちょっと、見せてくれ」
と、正男は、鉄夫の座っているものを確かめたが、別に、何でも無い。
「一体、何をしているんだ」
と、正男は、鉄夫を尋ねる。
「信じているんだ。未来の自分が、タイムマシンに乗って、今の自分にタイムマシンの作り方を教えてくれることを」
と、答える。
「何で、未来の自分が、タイムマシンに乗って、ここに来るんだ。今のお前は、タイムマシンを作ることが出来ないじゃないか」
と、正男は聞くが、
「だから、未来の自分が、タイムマシンの作り方を教えてくれる」
と、鉄夫は答える。
「今の自分がタイムマシンの作り方を知らないのに、何で、未来の自分がタイムマシンを作ることが出来るんんだ」
「だから、未来の自分が教えてくれる。今の自分が、タイムマシンの作り方を知れば、未来の自分がタイムマシンを作ることが出来るのは当然だ」
と、正男と鉄夫の会話は、堂々巡り。
一体、タイムマシンを発明したのは、誰なのか。
未来の自分が、タイムマシンの作り方を教えてくれれば、当然、今の自分は、タイムマシンを作ることが出来る。
今の自分が、タイムマシンの作り方を知れば、未来の自分は、タイムマシンを作ることが出来る訳で、その未来の自分が、タイムマシンに乗って、今の自分に、その作り方を教えてあげれば良い。
では、タイムマシンを発明したのは、一体、誰なのか、と、言うパラドックス。
鉄夫は、ただ、未来の自分が、タイムマシンの作り方を教えてくれるために来てくれることを信じる。ただ、信じる。
そして、「そうなった!」と叫んだ鉄夫は、「未来の自分が、外に来ている」と、部屋を飛び出して行く。
さて、結末は。
同じパラドックスを使ったお話が、「キテレツ大百科」の中の一話にもあります。
主人公の英一は、学校の宿題で「町の歴史を調べなさい」ということに関して、奇天烈齊の残した「奇天烈大百科」の中にあるタイムマシン「航時機」を制作。
この「航時機」に乗って、時間を遡り、町の歴史を記録。
そして、町に一軒の家も無くなった江戸時代に到着。ここから、この町の歴史が始まったと確認をして、現代に戻ろうとしたのですが、そのためのボタンが無くなっていた。
英一は、何とか、直そうとするのですが、「奇天烈大百科」は手元に無く、「航時機」は、ますます壊れ、完全に、動かなくなってしまう。
江戸時代に取り残された英一とコロ助は、一件の農家を見つけ、助けを求める。
「タイムマシンに乗って、未来から来た」
と、言っても、信じてもらえる訳もない。
それから、月日は経つが、どこからも助けは来ない。
それは、当然の話。
英一は落ち込み、コロ助が慰めますが、そこに、一人の旅人が現れ、「君の家に泊めてくれないか」と言うので、世話になっている農家に連れて行く。
旅人は、英一が、未来から「航時機」に乗って来たと農家の主人から聞き、「詳しく、話を聞きたい」と英一に言う。
英一が、ことの経緯を話すと「その『航時機』を見せてくれないか」と旅人は、話す。
「見たって、分かるもんか」と英一は言うのですが、旅人は「私は、珍しい物を見るのが、何より好きでね」と、英一に案内を頼む。
英一は、放置されていた「航時機」に旅人を案内する。
旅人は、その「航時機」の内部を見て、英一に、色々と質問する。
「これは、何かね」
「電池」
「これは?」
「モーター」
「これは?」
「トランジスタ」
面倒くさがりながらも、英一が、一つ一つ、質問に答えていると、旅人は、
「なるほど。大体の原理は分かった」
と、「航時機」の修理を始める。
旅人は、「これで、帰るまでくらいなら、動くだろう」と英一に言う。
まさか、江戸時代の人に「航時機」が直せるはずがないと、英一は、コロ助と一緒に、半信半疑、「航時機」に乗り込み、ボタンを押す。
すると、「航時機」は、正常に動き始めた。
驚いた英一は、タイムスリップで消える瞬間に、旅人に「お名前を聞かせて下さい」と尋ねると、旅人は、「私は、奇天烈齊……」と答えた。
無事、現代に戻った英一は、奇天烈齊に会えたことに感激する。
「そうか、奇天烈齊さまは、この『航時機』を見て、奇天烈大百科に書いたんだな。そして、それを見て、僕は、この『航時機』を作った……。じゃあ、一体、この『航時機』を考えたのは、一体、誰だ」
と、英一は、悩む。
この「パラドックス」は、どう解決をすれば良いのでしょう。
なかなか、面白い問題です。