泉鏡花の短編小説「外科室」。
以前から、読んでみたいと思っていたのですが、なかなか、手が出ず、ようやく、読んでみたところ。
文語調の文章ですが、それほど、読みづらいという訳ではない。
しかし、やはり、読み慣れない文語調の文章では、内容を、正しく、理解することが出来ないようで、ネットで、内容を補完。
以下、ネタバレとなります。
物語の語り手となるのが、画家の「予」、つまり「私」ということになる。
この「私」が、友達である高峰医師に、伯爵夫人の外科手術を見せてくれるように頼むところから、小説は始まる。
伯爵夫人は、夫や、使用人たちと共に、病院に来ると、手術室に運ばれることになる。
手術に挑む高峰医師は、泰然自若としている。
手術台の上に寝かされた伯爵夫人は、とても弱っていて、手術をしなければ、助からない。
しかし、いざ、手術を始めようとすると、伯爵夫人は、麻酔をかけることを拒否する。
「麻酔なしで、手術をして欲しい」
と、伯爵夫人は、言う。
「それは無理だ。麻酔なしで、手術をすることは出来ない」
と周囲は説得をするが、伯爵夫人は、頑として、受け入れない。
なぜ、伯爵夫人は、麻酔をかけられることを拒否するのか。
理由を聞けば、
「麻酔で、朦朧となると、無意識のうちに、思っていることを口走ってしまうからだ」
と、言う。
「それは、夫にも、聞かせられないことなのか」
と聞けば、
「そうだ」
と、答える。
高峰医師は、「分かった。ならば、麻酔なしで手術をしよう」と、メスを手に、伯爵夫人の胸の下を切る。
伯爵夫人は、「あなたは、私を知らないでしょう」と、高峰医師に言うと、高峰医師は、
「忘れていません」
と、答え、それを聞いた伯爵夫人は、高峰医師のメスを持った手をつかみ、自ら、自分の胸を突いて、命を落とす。
ここから、場面は、9年前の回想に移る。
私と、まだ学生だった高峰は、小石川の植物園を散策していた時に、とても綺麗な女性とすれ違う。
私と高峰はもちろん、近くに居た男たちは、その綺麗な女性を見て、その話題で持ちきりとなった。
その綺麗な女性が、後の伯爵婦人。
高峰医師は、本来なら、結婚をしていて当たり前の今の年齢になっても、結婚をしていなかった。
そして、高峰医師は、学生の頃から、品行方正で、「私」もまた、高峰の女性関係を聞いたことがない。
そして、高峰医師は、手術のあった同じ日に、亡くなった。
自殺をしたということなのでしょう。
二人は、それぞれ、青山の墓地と、谷中の墓地に葬られる。
ある宗教家は、この話を聞き、二人は、罪悪があり、天国には行けないだろうと話したということ。
以上、小説「外科室」の物語。
この小説を読んで、個人的な感想としては、かつて、二人は、人知れず、関係があったのではないかと思ったのですが、どうも、そうではないようですね。
二人は、9年前に、一目惚れをしたまま、あの外科室で再会をしたということのよう。
この小説が発表されたのは、明治28年。
やはり、このような、強い純愛が、支持をされたということなのでしょうか。
ネットを見ていると、どうも、泉鏡花は、「恋愛」と「結婚」は、矛盾をすると考えていたようですね。
それから考えると、この物語では、伯爵夫人は、高峰への恋心を秘めたまま、それを、誰にも話すことは出来ず、別の男と結婚をしなければならなかったということになる。
そして、高峰もまた、恐らく、身分の違いから、伯爵夫人に恋心を持ちつつ、近づくことも出来なかった。
そして、高峰は、誰とも、結婚をすることを拒否した。
今でも、ネットやテレビを見ていると、芸能人などの不倫の話題が絶えない。
やはり、結婚という制度と、恋愛感情は、矛盾をしているということになるのでしょうかね。