樋口一葉の小説「たけくらべ」。

若くして亡くなった樋口一葉の残した傑作小説です。

高名な人気作家、森鴎外、幸田露伴らが、この「たけくらべ」を絶賛したことにより、小説家、樋口一葉の名が、一躍、世間に知られるようになった。

しかし、もはや、一葉に残された時間は、短かった。

 

この「たけくらべ」は、吉原遊郭に隣接をする町を舞台に、その町の風景と、その町に住む子供たちの日常を、生き生きと書き写した名作。

樋口一葉の小説は、現代語訳も出版されているようですが、一葉の小説は、その文章を読まなければ、その素晴らしさを理解することが出来ない。

樋口一葉の文章は、いわゆる「文語調」で、しかも、一葉の時代からしても、かなり古いタイプになるそうです。

確かに、森鴎外の「舞姫」、幸田露伴の「五重塔」、泉鏡花の「高野聖」と比べても、一葉の文章は、かなり難しく、読みづらい。

しかし、ちくま文庫のこの本は、細かい、具体的な注釈がついていて、読みながら、文章を理解することが出来ます。

 

 

さて、物語。

 

主人公の一人は、美登利という女の子。

いわゆる、お転婆娘で、正太郎という男の子と、いつも、仲良く、遊んでいる。

美登利は、吉原遊郭の大黒屋の寮で、両親と共に、暮らしている。

なぜ、そんなところに居るのかと言えば、姉が、吉原で高名な、人気の花魁であるため。

そして、美登利は、その姉以上に、将来、女郎、花魁として、将来を嘱望された、美人の女の子だった。

 

もう一人の主人公は、龍華寺の息子、信如。

父親である和尚は、僧としての仕事の傍らで、金儲けに精を出す。

信如は、内気で、周囲の目を気にして、思ったことも素直に言えない性格。

しかし、龍華寺の息子ということもあって、長吉という子供たちのリーダー格になっている。

 

正太郎のグループと、長吉のグループは、対立関係にある。

長吉のグループが、正太郎を襲撃するところから、物語は始まることに。

 

美登利と信如も、もちろん、対立関係にあるのですが、これには、原因があった。

当初、美登利は、信如にも親しく話しかけていたのですが、信如は、美登利との関係を、周囲から囃されるのが嫌で、わざと、邪見な態度を取るようになった。

そのため、美登利の方も、信如は、自分のことが嫌いなのかと、信如を悪く思うようになる。

しかし、美登利も、信如も、内心では、お互いに好意を持っている。

その気持ちのすれ違いが、上手く、小説に描かれています。

 

そして、物語は、信如が、学校を卒業し、僧侶になるための学校に行くと決まったところで終わる。

そして、美登利にも、その直前に、大きな変化が訪れる。

 

この美登利の変化は、一葉は、原因をはっきりさせずに書いている。

そのため、研究者の間には、「初潮を迎えた」という説と「水揚げ」が行われてという説の、二つがあるということ。

この「水揚げ」とは、遊女が、初めて、仕事を行うこと。

つまり、初めて、客の男性と、寝床を共にすること。

 

一葉の小説、全般に言えることですが、登場人物は、自分の「運命」というものに逆らわない。

信如は、僧侶でありながら、金儲けに精を出す父親に、反感を持ちながらも、自身が僧侶になることを疑わない。

美登利は、姉が花魁であり、自分も将来、遊女になることが決められている。

そして、その自分の将来を疑わない。

 

やはり、樋口一葉の生きた明治という時代は、そういう時代だったのでしょうかね。

 

そして、ウィキペディアを見てみると、この小説のタイトル「たけくらべ」は、あの「伊勢物語」の第23段、幼馴染の男の子、女の子が、井戸の傍らで、背比べをした話が元になっているそう。

先日、「伊勢物語」を読んだばかりなので、なるほど、と、思いました。